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ハノイの料理大好き少女。

バイク界の退役軍人のようなボロいスクーターが街中を走り抜け、クラクションが響き渡る、水の街ハノイ。 美しい緑の水が涼し気に広がるホアンキエム湖。その西側に大教会があって。その近辺には古ぼけた旧市街、低層の職人街があって。靴屋通り、ハンドバッグ屋通り、印鑑屋通り、線香を売る店、漢方を売る店、金物屋、ブリキ製品、墓石、竹製品屋などがひしめいています。もともとハノイの人びとは田んぼで稲を育て、ごはんを、そして米粉の麺フォーを食べる土地です。かれらが大好きな素敵な香りのレモングラスもイネ科の植物、田んぼのまわりで育ちます。田んぼにはカエルがいっぱいいて、夜になれば空には月、地上にはカエルが合唱が聞こえてきます。


もちろん彼女が生まれたのは改革開放後です。
それでもまだ当時のヴェトナムは貧しく、水道水の状態にもいささか問題があり、水不足と電気の苦労はつきまとったもの。彼女は学校まで何キロも歩いたでしょう、道すがら何人ものお百姓さんに笑顔で挨拶しながら。そして夜には石油ランプで本を読み、やがて家族みんなでシングルルームで眠ったでしょう。闇のなかに笑い声が弾ける夜もあれば、口論がはじまる夜もあったでしょう。
それでも家族はいちばん大事なもの。


彼女の背が伸びるとともにヴェトナムも少しづつゆたかになる。彼女が学校に通うようになった頃には、田んぼだった場所に集合住宅が建ってゆきます。彼女が髪型やお洒落に興味を持つようになった頃には、三洋電機の洗濯機と冷蔵庫が家庭に導入されます。誰よりもこれをよろこんだのは彼女だったでしょう。彼女にとって冷蔵庫はシンデレラ城よりも輝いています、彼女は料理が大好きだから。


ヴェトナムはどんどん復興してゆきます。みんなパソコンを持ち、音楽好きの子はエレキギターや電子ピアノを持っています。男の子たちはITエンジニアや、機械工、医療関係、はたまた観光産業を目指し、女の子たちはアパレルや水産加工業、医療関係に就くことを夢見て、がんばって勉強します。みんな英語の勉強に夢中です。ヴェトナムは社会主義国だけれど、そんなヴェトナムが個人資産を認め、資本主義に舵を切ったのですから。
なかには中学生の癖にナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』を愛読する子さえいます。


そんななかAnh さんは学校の勉強も得意だけれど、それ以上に料理が大好き。Anh さんは包丁の腹を押しつけニンニクを潰しニンニクを刻み、
レモングラスの束を洗い、水道水で鶏ガラを洗い水煮して、灰汁をとり、カタツムリのスープを作ったり、フォーをこしらえます。家族は微笑みながら彼女の料理を食べ、おいしいね~と褒めもすれば、ときにはおばあちゃんやおかあさんが彼女にちょっとしたアドヴァイスもしたでしょう。


そんな彼女がどうしていま新大久保のViet Xua で料理長を務めているのか、それはぼくにはわからない。





ぼくは好きなレストランができると、大好きな女友達を誘いたくなる。そんなわけで2回目の来店です。


ぼくらはこんな注文をした。
まずはビール、BBB とSaigonを一本づつ。各700円。 


1) 【やや冷菜】蒸し山羊のレモン風味サラダ Dê tái chanh 1280円。
(すばらしい! 魅惑のおいしさ! 
すごいんですよ、これがくわしくは後述します。)



2) 殻つき牡蠣のロースト。Hàu nướng 1280円
殻のままローストしてあって、砕いたピーナツが食感のアクセントになっています。温かくなまめかしい牡蠣をいただき、そして殻を持って口元へ近づけ、牡蠣のジュースをいただきます。ん~ん、おいしい♡


3) 揚げ春巻 Chả giò 1150円
からっとこんがり焼きあげられた春巻きの内側には、春雨や豚挽肉などが入っています。調理法がとっても気になります。小鉢に注がれた黒胡椒風味の甘酸っぱい透明なソースをつけていただきます。
女友達は言う、「タレにブラックペッパーでアクセントをつけてますね、しかも上品♡」
この甘酸っぱい透明なソースがぼくらをハノイへいざなってくれます。


4) フォー・ボー Phở bò(牛肉のフォー) 1100円。
コンソメと呼びたくなる澄み渡ったすばらしいスープのなかに、純白の清楚な米粉麺がたゆたい、軽くマリネしてある薄切り牛肉片が数片潜んでいます。生の赤唐辛子の小口切りと、アサツキの緑が彩りを添えています。このコンソメをいただくだけで、料理長のAnh さんの料理人としての育ちの良さがわかります。おいしい~、ただただおいしい。日本人的に言えば、はんなり京風なおいしさです。



さて、今回ぼくらを魅了した、(やや冷菜)蒸し山羊のレモン風味サラダ Dê tái chanh は、いったいどんな料理だったでしょう。

ぼくは山羊肉をネパール料理で食べたことがあるようなないような、そんな頼りない経験しか持っていないけれど、いずれにせよ、このクニクニした食感の山羊は初体験です。白ワインでマリネしてあるのではないかしら。山羊はいったいどんな溶液で蒸してあるかしら? もしも白ワインで蒸してあったとしても、ぼくはまったく驚きません。それほどまでこの料理はエレガントです。
山羊肉は絲切りで、赤ピーマン、緑ピーマンも混じり、しかもピーナツがたくさん振りかけられていて、全体に清楚なレモングラスの香りとレモンの酸味を纏っています。それらをすべて和えた(やや冷菜)サラダです。そしてこのサラダに、クリスピーな食感のゴマ入り揚げせんべいのようなものが添えてあって、ぼくらはこれを砕いて山羊肉のレモン風味サラダと一緒に楽しみます。おいしいんですよ、これがまた。とっても洗練された優美なおいしさ。ハノイには四季があるとはいえ、おおむね暑い土地ゆえ、このレモンの酸味の爽やかさがうれしいでしょう。


おもえばぼくはアーンドラ全店舗の総料理長ラマナイヤさんと出会って南インド料理を大好きになった。小岩サンサールのウルミラさんの料理で
ネパール料理の魅力を知った。さいきんは錦糸町・百宴香の厨師・魯国榮さんの料理で、上海料理に魂を奪われていて。 そしていま、ぼくは
こちらViet Xua のAnh さんの料理によって、
ハノイ料理に魅了されています。ついこのあいだまでのぼくはヴェトナム料理と言えば生春巻、フォー、定食セット、バイン・ミーしか知らなかった。そんな自分がまるで嘘みたいだ。


なお、こちらViet Xua さんは、ランチメニューはなく、ア・ラ・カルトのみ。もちろんひとりでフォーや、バイン・ミーを食べるのも楽しいですが、ただし、ハノイ料理の魅力を満喫するには
気が合って食の好みも近い、そんなふたり以上での来店をお勧めします。なお、給仕のヴェトナム青年も料理理人のAnh さんもシャイなので、お客のわれわれの方から注文そのほかについて積極的に相談しましょう。


VIET XUA ベト・スー
東京都新宿区百人町1-11-1 アーバンビル B1F A
Phone 03-5358-9480
12時から24時まで通し営業、定休日なし。
新大久保駅そば、クロサワ楽器とインド食材店アンビカの通り、ネパール料理店Rato Bhale さんのお隣です。


Eat for health, performance and esthetic
http://tabelog.com/rvwr/000436613/

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