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趣味の距離感

「自分の趣味に付き合ってもらう」ことが少し苦手だ。

基本的には趣味は自分だけで堪能するタイプだが、友人との買い物中や、ネタ切れしたデートでは、普段一人で楽しんでいるものを相手にシェアすべき状況がしばしば発生する。そんなときにどこまで切り込んでいいかわからない。

趣味に付き合ってもらったとして、相手にも響く部分があって、リアクションをもらえるときは嬉しい。じゃあ今度ここ行こうよ!と、次の約束に繋がって、「共通の趣味」として発展していくありがたいケースもある。

その一方で、相手の琴線に触れず、一緒に楽しめない状況もかなりの確率で起こる。相手がつまらなそうにしていたら申し訳なさでいっぱいになるし、自分も心から楽しめない。皆、大人になるにつれて、そういう素振りは減ってくるが、何となくわかってしまう。理解されない虚しささえ感じることもある。

ちょっぴり本音を言うと、自分の好きなモノ・コトを理解してもらいたいと思う気持ちはいつもある。自分を知ってもらうって、やっぱり嬉しいから。共通の趣味にまでならなくても、あなたはこれが好きなのね、と理解があると安心感を覚える。だからこそ、心の中で葛藤があって、難しく、苦手だと思う。自分って変な奴。


少し前に、彼と旅行で東京に行った。ざっくりとしたスケジュール。彼はすぅちゃんの好きな場所に行こうと言ってくれた。

私が提案したのは、お茶の水にある「コーヒーパーラーヒルトップ」。明治大学近くのクラシックホテル、山の上ホテルに併設された喫茶室だ。私は「クラシック」という言葉にめっぽう弱い。新しいものも好きだけど、古くからの洗練されてきた伝統は私の目により魅力的に映る。言ってしまえば、私の趣味だ。

雑誌で見つけて、ずっと気になっていた喫茶室。就活が終わったご褒美。研究を頑張るエネルギーのため。せっかくなら…と告げると、彼は二つ返事で軽やかにオーケーした。

コーヒーパーラーヒルトップ

当日、喫茶室につくと、店員さんに1時間待ちを告げられた。「私のために1時間」は少し気が重い。迷ったけど彼は待とうと言ってくれた。

電話で呼び出しがあるまでは、街で時間をつぶしていいのだという。お茶の水にはたくさんの楽器屋さんがあり、音楽が趣味の彼は全然困らないよ!とのこと。だけど彼はちょっと不安そうな顔をしていた。すぅちゃんは退屈しちゃうかも、と。

「別行動にしようよ」と切り出したのは私だ。彼から、私と同じ苦手意識を感じたから。さっぱりした顔で彼は街に消えていった。私は神保町のほうへ向かって散歩することにした。

まったく知らなかったのだが、神保町は私の好きな本や文具の店がたくさんあった。今はリニューアル中の三省堂書店や、いろんなジャンルの古書店、ディープな文房具屋。街をどんどん進んでいく。さわやかな風が心地いい。

夢中で楽しんで、気づいたら余裕で1時間、呼び出しの電話がかかってきた。

その後合流して、喫茶室に入った。彼は楽器の試し弾きをさせてもらったと興奮してニコニコしていた。それを見て私も嬉しい気持ちになった。気に入った本を買ってハッピーだったこともある。喫茶室では、それぞれプリンアラモードとパフェを食べた。さっきまで、別々に楽しんでいたのに、今は一緒に同じ空間を過ごしている。なんだか不思議だ。どっちもいいな。

憧れだった、プリンアラモード

ちょっとリッチな喫茶室は、彼から「一人だったら来ることなかっただろうから、ありがとう」と評価を受けた。ちょうどいい距離感だと思った。いつもお互いがお互いに付き合う必要はないのかもしれない。個人の趣味が充実するから、相手の好きなものに付き合えるし、尊重できるのかもしれない。

一人で楽しむ趣味と、共有して楽しむ時間のコントラスト。どちらも居心地がよく、他人を介在させない安心感と、一緒に過ごす喜びは天秤にかけることができないものだと理解した。

どこまで切り込むか、どこまで踏み込むかは、究極のところ人による。友人でも恋人でも、楽器のようにちょっとずつチューニングしながら、お互いの「ちょうどいい」を見つけていけばいい。









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