「Endless SHOCK」限りない衝撃を生む堂本光一の世界|舞台感想
いま日本でいちばんチケットが取りにくいとうわさの舞台があります。KinKi Kidsの堂本光一さんが主演をつとめる「Endless SHOCK」という作品です。このチケットが、ひょんなことからわたしの手元に舞い込んできました。
なんとなく作品の評判を耳にしていたものの、どういう内容なのかまではさっぱりわかりません。ですが、ときおり目にする「舞台が好きな人は観たほうがいい」なんて言葉に「そこまで言われるものなら一度くらいは拝んでみたい」と観劇したい気持ちが膨らんでいたのです。
ようやくめぐったチャンスを手に、蒸し暑い夏の盛りのなか、劇場まで足を運びました。
幕が開いてまず、オーケストラの技量の高さに圧倒されました。スクリーンに一文字ずつ映し出される「SHOCK」の文字にあわせて、寸分違わず音を鳴らすのです。その演奏を聴いただけで「これはすごい舞台だ……!」と肌で感じたのを覚えています。
驚きはここで止まりません。ステージの奥行きを目いっぱいに使った狂いのないラインダンスに、調和のとれた歌声を響かせ、大勢のキャストが舞台の上をいろどります。照明の効果もあいまって、舞台が浮いているように感じられました。
そして満を持して登場した堂本光一さんは、ふんわりとした空気をまとって出てきました。鮮烈な印象の舞台とはまったく正反対の雰囲気に、わたしは面食らいます。しかし「大スターコウイチ」を演じながらも、作品を引き締める役割も担っていると気づきます。こんな主役の背負いかたもあるのかと驚きを隠せませんでした。
幕が開く前、客席のざわめきに乗って「この舞台はフライングがすごい」と演出を褒める声があちこちから聞こえていました。それを聞いたわたしはうっすらと「なんか飛ぶらしい」と心のうちで思い、ポケットにしまい込みます。キービジュアルに映る赤い布の意味を、このときはまだ知らなかったのです。
お客さんの言葉どおり、目の前で妖精のように飛ぶ光一さんのフライングはそれは見事なものでした。背中の1点だけで吊られているのに、重力をまったく感じさせないのです。まるで魔法でも見ているかのような表現に思わず息をもらします。
なによりもすごいのは、ともに舞台に立つ後輩キャストがフライングの装置を取り付けるのです。大先輩と後輩が交わすアイコンタクトの表情も、作品のよさをグッと引き上げていました。
フライングは1回だけではありませんでした。吊られた和傘が上のほうからするすると舞台に下りてきたかと思えば、持ち手を握って宙を舞い始めます。1点吊りで2階席の高さまで上がっては、客席の真上でパフォーマンスを繰り広げます。披露するごとにどんどん難易度が上がっていくのです。そのたびに惜しみない拍手が送られます。
舞台も終盤を迎えたころ、天井からばさりと真っ赤な布がひるがえりました。それと同時に、劇場にいるお客さんが一斉に息を呑みます。
舞台上のキャストも固唾を呑んで見守っていました。底知れない緊張が会場を走ります。なにも知らないわたしは、空気の変わりようにひとりうろたえます。
光一さんが下りてきた赤い布を両腕にぐるぐると巻き付けはじめました。やけに念入りに引っ張って、ゆるまないようにしているようです。「まさか飛ぶわけじゃないよな」そう思うが早いか、勢いよくステージの上を駆け出します。
驚く間もなく、腕に巻いたたった2枚の布で美しく空を舞い上がっていました。ゆっくりとひらめく赤い布と、ゆれる前髪がスローモーションのようにわたしの目にうつります。ですが身体は微動だにしません。凛とした佇まいをけっして崩さずに、命を賭すにふさわしい演出を魅せていました。会場に割れんばかりの拍手が響きます。
ステージに降り立った光一さんはすぐさま布をはずし、賞賛の雨を一身に受けていました。大仕事を終えて柔和な表情を浮かべます。そういえば、裏側でフライングの綱を握るスタッフさんが数日前に発熱して、いくつかの公演が中止になったことを思い出しました。「できてよかった」たぶん、そんな意味もこめられていたのでしょう。
あらゆる舞台演劇の演出に、グランドミュージカルの荘厳さ、宝塚の一糸乱れぬダンスと、ジャニーズが培ってきたパフォーマンス力を濃縮したような作品でした。劇場にきたお客様をひとり残らず楽しませる、そんな気概をこの舞台からは感じます。
きらびやかで美しく、驚きに満ちたこの「Endless SHOCK」を直接この目で観たからこそ、わたしは胸をはっておすすめできます。
「舞台が好きな人もそうじゃない人も、絶対に一度は観たほうがいいよ!」
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