パレットクラブ日記　第33回・大島依提亜先生「短編集の装画を描く」

※パレットクラブスクール「イラストコース」（23期）の授業内容の備忘録です。過去の授業内容はこちら。

2021年5月2日、日曜日。23期パレットクラブスクール・イラストコースの最終回の日がやってきた。この8ヶ月間は長かったとも思うし、あっという間だったとも思う。記念すべき33回目の講師は、大島依提亜先生だ。第17回の授業に引き続いての2回目だが、前回はオンライン授業だった。今回は生イデア先生だ！ 終わりの寂しさも伴いつつ、楽しみに築地へ向かう。

課題

前回の課題は「ありえない椅子の座り方」を数パターン描くという面白いものだったが、今回も奇抜だった。
「短編集の装画を描く」課題だったのだが、そこに収められている短編の内容設定がすごかった。

・自分がひらがなの“あ”になってしまったかもしれないという妄想に取り憑かれた男の話
・宇宙ステーションで飼っているメダカの観察日記
・あらゆる難事件を金で解決する超大富豪探偵初めての未解決事件の真相
・短編集のタイトル：『お察しします』／著者：最弱流砂郎

これ、先生が考えたんだよね……。後に依提亜さんから「その場の思いつき」であったことが明かされるのだが、とっさにこんなバラエティに富んだ設定が思い浮かぶ、柔らかな脳みそに感嘆してしまう。さておき、課題自体は最終回らしく、ドスンと重たい。どれか1篇にフォーカスしても、3篇全てをモチーフにしても、どちらでもいいとのことだ。さて、どうしようか。

制作

いつもの課題の延長ではあるが、今回は最終回でもある。今まで学んだことや、もらった助言を生かして制作したい。

パレットクラブに通う中で、主線を白抜きにして描く方法にひとつたどり着いたので、その描き方は使いたいと思った。そして、第31回の服部一成さんからは、この描き方でモノを描いてみては、というアドバイスをもらったばかりだ。

短編に出てくる人をモノっぽく、おもちゃっぽく描いてみたらどうだろうか？ そんな発想で制作した。

自分が平仮名の「あ」になってしまったと妄想する男を、木のおもちゃ風に描いた。大好きな安野光雅の『あいうえおの本』から着想した。ついでに他の2篇をアルファベットと漢字で表現することで、平仮名であることを際立たせている。「A」はお嬢様探偵風に、「阿」は宇宙船を想起できるデザインにした。

今回は、この課題制作とポートフォリオをみてもらえることになった。

講評

最終回らしく、みんなの力作が教室の壁に並ぶ。初めてお会いする依提亜さんの、黄色いスウェットが眩しかった。

床山がもらったコメントは以下の通り。

（ポートフォリオ）
・女性は雑誌風に描けているが、女性像が時流に合っていない感じ。もっといろいろな女性を描くといい。
・絵の中の服より実際にあなたが着ている服の方がおしゃれ。自分の好きな服を着せてみては？ その方が絵がよくなるし、今は無理をしている感じに見える。
（課題）
・今回の絵はめちゃくちゃいい。新境地じゃない？ 色もいいし、全部話が入ってる。
・この絵は（あなたの）パーソナリティに寄っている。可能性を感じる。

課題の評価が思いのほか良かったので驚いた。女性の絵に関しては、実は夫からも「無理をしてる感じに見える」といつも言われている。自分では着ることができない、好きな服を絵の中で着せるのが楽しいのだが……。

依提亜さんは、他の人にも「パーソナリティの投影」「自分のアイデンティティを絵に潜り込ませる」といった言葉を投げかけられていた。自分の外見とイラストのモチーフに統一感は必要ないと私は思っていたのだが、意外に大切なことだったりするのかもしれない。絵を自分に寄せていくか、それとも自分を絵に寄せていくか。少し考えてみたいと思う。

33回の授業を通して、自分のイラストの方針がくっきり浮かび上がってくるといいと思っていたが、課程を終えて、さらに深い森の中へ迷い込んだような心地がしている。とはいえ、何も見えていなかった8ヶ月前とは違う。発展させていきたい描き方も見つかったし、何より、絵に向き合う心構えができつつある。イラストレーターとしてはまだよちよち歩きだが、今まで学んだことを反芻しながら絵を描いていけばいいし、そうするんだろうな、という明るい見通しが得られたのは、大きな収穫だったと思う。

先生方、スタッフのみなさま、同期のみなさま、そしてこの記録をお読み下さったみなさま。どうもありがとうございました。体調に不安もあったけれど、なんとか授業は皆勤です。この授業記録も、最後まで書き続けられる気がしていませんでしたが、どうにか完走できました！ おかげさまです。

パレットクラブ日記は、卒業制作展についての投稿をして締めくくる予定です。あと1回、お付き合いください。