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何にもなれないまま40代になった。【2】

そろそろ子どもが小学生になろうという頃に
住んでいる社宅が無くなるという話が出た。

無くなる直前までそのまま住んでいて、
会社が指定する他の社宅あるいは
借り上げ住居に引っ越すのか。
そうやって一生、社宅を転々とするのか。
一生、夫の会社に住む場所を決められるのか。
一生、好きな家には住めないのだろうか。

そう考えると悲しくなった。

もちろん、子どものこともあった。
これから小学校に入るところなのに
入学して1年も経たないうちに転校するのか。
夫が転勤になるたびに学校も転々とするのか。

そう考えると鬱々とした。

子どもの頃に描いていた生活とはかけ離れた暮らしをしていた。

駅からバスで10分ほどの郊外。
子どもが通う幼稚園の友達のお家は
大体が戸建てであった。
大体が新築5年以内であった。

「ゆかちゃんのお家、すっごくキレイだったね!」
「けんと君のお家広かったね!」
「いいなー、お2階があってー」

お友達の家に遊びに行くと子どもは必ず
そんな感想を口にした。
私は毎回がっかりした。

こんなはずじゃなかった。

また私の気分は下降した。
ただ、理想の家を思い浮かべることだけは辞めていなかった。

不動産屋からのチラシを見て自分たちの生活を夢見る。空想する。妄想する。
この間取りではどこを子ども部屋にするか、
家具はどんな配置にするか。
カーテンは何色にするか。
フローリングは濃い色か薄い色か。
脳内で組み立てる。

そのうちにチラシだけでは飽き足らず
ネットで検索し始めた。

このぐらいなら買えるかもしれない。
ローンを組めば買えるかもしれない。
家を建てるのは無理かもしれないけれど、
ここに載っているぐらいなら
夫の給料でも買えるかもしれない。

明るい未来が見えた気がした。


#結婚
#小説

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