見出し画像

2023.8.18大森靖子『KILL MY DREAM TOUR』(愛知)名古屋クラブクアトロ

いつもの如く、「ライブの感想は、そのライブの日までどういう日々を送ったかに左右される」と思っているので、名古屋公演までの私のことを少しだけ書いておく。

7月の栃木公演前ほどの不安定さとはまた違う不安定さがあった。主に自分の将来についてである。お盆に親戚が集まるなか大泣きし、「私が自殺するって言っても誰も助けに来ないんだ!」と泣き喚きながら家に帰るくらいにはおかしかった。

TOKYO PINKのオーディションのことも、私の心を掻き乱した。ZOCが始動した日からずっと憧れていたTOKYO PINK。自分の名前を売って有名になればそこにたどり着けると思って、アイドルのオーディション受けたり、配信アプリやったり、コンカフェ嬢になったり、自分の本を売ったり、この5年くらいの間、全ての人生と気力をそこに注いできた。神社や占いに行けば、TOKYO PINKのことばかり願ってきた。まっすぐ強く思いすぎて、それ故に心のバランスを崩して、現在躁鬱であるという厄介なハンデも背負ってしまった。

私が初めて大森靖子を見たのはここ、名古屋クラブクアトロなのである。『クソカワparty』というツアーの時に、人生で初めてのライブに、人生で初めての大森靖子に、人生で初めて感動の涙を流したのだ。そして思った。「私、この人に近づきたい」と。

その日から私の人生の要素の中に"大森靖子"が加わった。『クソカワparty』以降のツアーは名古屋公演には必ず参戦し、他県に遠征することもしばしばあった。私の知る限り、この数年間、クアトロを使うことは無かったのである。

だから今回の会場がクアトロだと知って、「あぁ、あの場所だ。私が初めて泣いた場所だ」と思いながら向かった。会場に着いた時、「あぁ、ここ!覚えてる!」と声が出た。上手側のバーカウンターのところにしがみつきながらライブを見て、『きもいかわ』で泣いたのを覚えている。

19:00になり、照明が落ちる。

1曲目はもちろん『ミッドナイト清純異性交友』。私はもういつものことだが、靖子ちゃんが登場するだけで泣きそうになってしまう。

そこから『マジックミラー』『新宿』と、「大森靖子と言えば!」な曲が続いたところで、突然あのリズムが始まった。

「ク・ソ・カワparty ク・ソ・カワparty」のあのリズム。それが聞こえた途端、「えっ!」と想って背筋が伸びた。『クソカワparty』名古屋公演がこの会場だったことと関係があるのかないのか、でも私にとって、この場所でこの曲を再び聴けることは、私の心を数年前のあの日に連れていく力を持っていた。『REALITY MAGIC』。

突然靖子ちゃんによる「大森靖子はい・い・ぞ」のコールが始まり、楽器体の参入により盆踊りのようなコールになった。この流れをどうするつもりかと思っていたら、まさかの『めっかわ』!『めっかわ』をライブで聴けるのは珍しい気がする。ふと、ゆるナナちゃんのことを考えたりした。ゆるナナちゃん、元気にしてるかな。

そのポップでかわいい空気を引っ張ったまま『×○×○×○ン』へ。「農家に感謝!」のコールで「靖子に感謝!」と聞こえてきた。おじ様方の「俺に任せろ!」も力強かった。

そして私が高校時代によく聞いていた『非国民的ヒーロー』。実は、先行物販に並んでいる時にリハの音が聞こえてきていて、「非国民やるのかな!」と密かに楽しみにしていた、の子さんのパートを歌えるようになったのも、長くて辛かったコロナを乗り越えた証のように感じる。

そして約束通りの『Re:Re:Love』。「気持ち悪いけど〜!」を歌うという約束を無事に果たした。私が靖子ちゃんに向けている重たすぎる感情も、相当気持ち悪いのだと思う。でもその気持ち悪さが、まっすぐであることだけは分かって欲しい。

ここで少し休憩。「5分くらい喋ります!」という靖子ちゃん。『REALITY MAGIC』の歌詞に含まれる「ポッピングシャワー」について言及し、「そんなところもかわいいって言って欲しくてこの曲を持ってきてみました!」とのこと。開場からは「かわいい〜」の声が飛び交った。

そして、「『カリスマ』という言葉の語源は古代ローマ?古代ギリシャ?」という超天獄クイズが出され、「古代ギリシャ〜!」と『超天獄』がスタート。『TOBUTORI』へと続き、私たちを空に連れていってくれる。

そこから少し雰囲気が変わり、『family name』と『怪獣GIGA』へと続く。この2曲はアイドルへの提供曲であり、好きな人も多いと思う。ペンライトがよく上がっていた。覚えたつもりなんてないのに『family name』の振り付けができてしまう自分が少し虚しかった。

そこからさらに会場は雰囲気を変えた。重く苦しいキーンとした楽器が爆音で鳴り響く。『VAIDOKU』だ。この曲は音源で聴くのもいいが、ライブで聴くのが至高だと思う。こんなにごちゃごちゃした、何かを引きずり出されるような音楽は聞いたことがない。

『VAIDOKU』の爆音のあとに何を持ってくる気だろうと思っていたら、音の無い空間から紡ぎ出したのは『夕方ミラージュ』だった。数日前に「女という価値を売るんじゃなくて、女を超楽しんでるだけの私と超ハッピーなことするために、時間を作ってお金を払って会いにきて、つくったものを愛でてくれることが、本当にかけがえないぞ!」と呟いていた靖子ちゃんを思った。妻だからとか親だからとかじゃなくて、ただ私が私であるための時間。そんな時間の大森靖子を見るためにここまで来たのだ。

そうして会場の心を最高潮に引き付けたところで『死神』へ。この曲もクソカワpartyに収録されていた曲なので、数年前のクアトロでも聴いたはずだ。あの頃の自分と今の自分、もう全然違っている。たくさんの自分を殺してきたし、殺されてきたし、その度に別の私を生み出さなくてはならなくて、失敗作が生まれてしまうこともあった。あのころと今、どちらが良いのだろう。考えると苦しかった。

そしてクライマックスに持ち上がった会場全員で『オリオン座』を合唱。

実を言うと、いつもは1曲目からボロボロと泣いている私であるが、今回は全然泣けていなかった。ライブ前に飲んでしまった安定剤のせいか、顔が変に引き攣るような感覚があり、ライブ中ずっと変な感じだった。気持ちを抑え込まれすぎてしまっているのかもしれない。

「今日は泣けずに終わっちゃうのかな」と、乾いた顔でオリオン座を歌い始めた。そのはずだったのに、2番の「ボリューム上げた人の声だけ届くこの不平な」の部分で全員のボリュームが上がったところで涙が溢れ、一筋だけ流れて行った。どれだけ叫んでもとどかない虚しさを、私は身を持って知っている。ここにいるおじさんたちも、同じ虚しさを知っているのだろうか。

1度ステージから去り、「靖子が1番かわいいよ〜」の声に呼ばれてアンコール。

アンコール定番の『絶対彼女』。
そして『最後のTATOO』。

『最後のTATOO』で締めるのは多幸感があって好きなので、「あぁ、これで終わりだな」と思っていたら、終わらなかった。

『S.O.S.F.余命二年』!
まさかアンコールのラストでこの曲をやるとは思っていなかった。私はライブでは1回くらいしか聴いたことがない気がする。

靖子ちゃんが命の時間を使ってここに歌いに来てくれたこと、そして会場にいる全員も命の時間を使ってここに集まったこと。いつか死ぬ日が来たら、こういう思い出が走馬灯のように駆け巡るのだろうか。

終演後の拍手は、なんだかいつもより大きく感じた。この曲を最後に聴けたことの喜びはみんなも同じだったのかもしれない。

夏は辛い。帰り道、すっかり安定剤でおかしくなった私は、半開きの口で呼吸をしながらヨロヨロと自転車を漕いで帰った。そんな私だからこそ、この日を待っていた。

次の生き延ばしはいつになるだろうか。

自分の書いた言葉を本にするのがずっと夢です。