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芹沢怜司の怪談蔵書「27.病院の受付」

 ―アパートの管理人―

「こんにちは。お掃除中失礼します。これからお世話になります芹沢怜司です」

 物腰柔らかな老人は部屋のドアを開けっ放しにして近付いてきた。きちんとしてそうな印象なのに、意外と大雑把なのかもしれない。

「こんにちは。お話は聞いています。なんでも急に家が壊れたとか……」
「ええ、まあ。古い家でしたからね。いつかこうなるんじゃないかと思っていました。どうにかしないと危ないなと常々考えていましたがなかなか足が動かなくて……」
「わかります。対策しようと思ってもなかなか動けませんよね。わたしも壁の中から声が聞こえると相談されたときは本当に困りました」
「そういえばこの町は怪異が多いですよね。除霊できる人っていますか?」
「いえ、除霊師を名乗ってる人はいますけど本当に力がある人はいません。何か困ってることがあるんですか?」
「この町では怪異が頻出してるそうなので、万が一に備えようと思いまして……。怪談は好きですけど実際に遭うのは遠慮したいんです」

 その気持ちはわかる。この町に住んでいたら年に1回は巻き込まれる。慣れたとはいえできれば遭いたくはない。

「怜司さーん。そろそろ話しましょうよ」

 部屋の中から呼ばれて、芹沢さんは「わかったよ。ちょっと待ってて」と返事した。

「すみません。知人が呼んでるのでこの辺で……」
「はい。生活で何かあったら相談してください」
「ありがとうございます」

 芹沢さんはお辞儀をして部屋に戻っていった。開けっ放しにされていたドアは閉まり、廊下は静けさを取り戻した。

 ※ ※ ※

「管理人さんに挨拶してきたよ。急だったから歓迎されないかなと思っていたから受け入れてもらえて良かった」
「来るもの拒まずって感じですよね。僕らは浮きやすいのでありがたいです」
「本当にね。さて、怪談話なんだけどこの部屋に怪異を呼び寄せたくはない。今はまだすぐそこに管理人さんがいるから家に戻れないし……」

 空間は内側の扉を開けても繋がらない。一度廊下に出て扉を閉めてから開けなくてはならない。

「じゃあ夜になったら外出しましょう。町を案内します。それにこの町は怪異のせいで誰もいない場所が多いんです。そうですね……今日は病院跡地に行きましょうか」
「その病院に怪異は?」
「いますよ。でも奥に行かなければ大丈夫です。入口で話しましょう」

【病院の受付】

 病院には怪異が蔓延っている。廃墟になってしまった病院はもちろん、使われていても謎の影を見たり、死者が徘徊していたり……窓や天井に張り付いている幽霊もいる。

 敷地内ならどこにでも幽霊がいる。病院はそんなところだ。

 ここで紹介するのは受付に現れる怪異だ。見た目や言動は普通の人間と変わらない。その受付は夜に現れる。周囲に誰もいない時は要注意だ。特に夜間受付をしている病院に行ったら思い出してほしい。

 見分ける方法はあるのか?

 残念ながら案内されるまではわからない。ではどこに案内されるのか?

 案内された先にあるのは手術室だ。手術室に入れられて臓器を摘出されてしまうんだろうね。麻酔はされるのかな?

 でも安心してほしい。普通は異変に気付く。手術室に近付くにつれて人が増えるんだ。みんな一様に俯いている。一切こちらを見ようとしないし、咳払い一つもしない。どう見ても異様な光景なんだ。そんな状況で進むような人はいない。

 おかしいと思ったら引き返そう。走ってもいいし歩いてもいい。焦らず戻ろう。大丈夫、追いかけてきたという話は聞いたことがない。手術室にさえ入らなければいいんだ。

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