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芹沢怜司の怪談蔵書「15.お化けの家事代行サービス」

「危険な怪談の調査は駄目だ」
「どうしたんですか急に。今までもそれほど危険ではなかったのに、これよりも安全な、最早怪異とは言えないようなものだけに絞るんですか?」
「できればそうしたい。もちろん理由はある。実は……前回調査した『闇』が家の中に現れたんだ」
「それはラッキーですね。何をお願いしたんです?」
「…………」
「まさか何も願わなかったんですか? 闇が我慢できる時間なんてとっくに過ぎてますよね」
「朝起きたら闇があったんだ。驚いて数分は動けなかったと思う。おまけに寝ぼけてたし。その間アクションは一切ない。今も寝室の天井にいるはずだよ。どうして呑まれないか……わからない。もしかしたら観測者も関係してるかもしれないんだ」
「観測者? 観測者って大きな事件が起きる時に現れる野次馬のような怪異ですよね。え、いるんですか?」
「観測者も起きたら隅っこにいた。部屋を出るまでたぶんずっと私を見ていたよ。正直あんなに見られていたら居心地が悪い」
「怜司さんの身に何か起きるんでしょうかね。でもそれでどうして今後は安全な怪異の調査にしようと?」
「もしかしたらなんだけど、今まで話してきた怪異が集まってきてるんじゃないかと思ってね。闇と観測者、家の中にはいないものの追われる霊も近くを走っている。さらに呪具の類もほとんど集まっている。これは偶然ではないだろう」

 呪いの配達人からも近いうちにやってくる予定だ。ここから先は比較的安全な怪異を選ぶ必要がある。

「というわけだ、私の安全のためにあまり害がない怪異を選ぶ」
「面白味に欠けますが怜司さんに何かあっても困るので仕方ありませんね。しかし……それであの本は満足するんでしょうかね?」
「してくれなきゃ困るな」
「じゃあ今回は安全性の高い怪異を話しますか。それで本の反応を見ましょう」

【お化けの家事代行サービス】

 なんて便利なお部屋なのでしょう!

 みんな「この部屋にはお化けが出るからやめとけ」って、すごい剣幕で言うものだからどんな恐ろしい体験が待ち受けているのかとドキドキしたのに、家の家事を全部やってくれる素敵なお化けさんがいるなんて!
 嗚呼、やっぱり人の言うことなんて聞くものじゃないわ。自分の目で確かめた方が確実よ。

 こんなにお優しいお化けさんがいるのにどうしてみんな怖がるのかしら?   
 全自動の機械だと思えば怖くもなんともないのに。目に見えないものがあずかり知らないところで家事をやっているのが怖いのかしら。わたくしにはわからない感覚だわ。
 生まれてからずっと家のことはお手伝いさんに任せてきたから、お化けさんであっても全部やってくれるのはとてもありがたいこと。わたくしは感謝の心でいっぱいですわ。

 お化けさんの活動時間はもちろん夜。迷惑をかけないようにわたくしが就寝してから家事を始めているみたいだわ。最初はわたくしが出かけているときにやれば良いのにと思ったけど、お化けさんについてお勉強したらお昼の日差しは大敵ということがわかったの。
 本にはお化けさんは恐ろしい存在だと書かれていたけど、わたくしのお部屋にいるお化けさんは優しくて本当に良かったわ。今度お父様とお母様に紹介しようかしら。

 あら、日記を書いていたらもう日付が変わりそう。そろそろ寝ないとお化けさんが活動できないわ。夜更かしなんかしてたら片付かないわよね。さっさと寝ましょう。
 このお部屋に引っ越してから1週間。まだ環境に慣れなくて毎日すぐ寝付いちゃうくらい疲れてるけど、お化けさんのおかげで楽が出来て嬉しいわ。これからもよろしくお願いしますわね。

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