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芹沢怜司の怪談蔵書「13.追われる霊」

「良かった! 無事に届きましたか。どうです? 人形の様子は」
「部屋に閉じこもって出てくる気配がないよ。このまま大人しくしてくれればいいけど」

 人形がやってきてから呪具用の部屋には入っていない。物音は聞こえないから暴れてはいないだろうけど、これはこれで不気味だ。一ヶ月後に部屋の掃除を予定していたけど、延長を検討しているところである。

「ところで怜司さん、僕がいる町は怪異が多いでしょう? ちょっと散歩しただけで遭遇するぐらいなんですけど、いまいち緊張感に欠けるんですよね。例えば追いかけられるとか……」
「却下だ。君に何かあったら面倒事が増える。……そんな残念そうな声を出したって駄目だよ。次はこれを調査してきなさい。君は追いかけられないけど、追いかけられている幽霊が見られるかもしれないよ」


【追われる霊】

 お化けは追いかけてくるものだと思ってた。

 公えんのすなであそんでいるとだれかがボクを見ているかんじがした。

 だれだろう?

 かおを上げると、背がとても高い男の人のお化けがボクを見ていた。
 目が合った! と思ったのと同じタイミングでお化けが走ってきたんだ。

 こわかった。ボクはスコップとバケツをおいてお母さんのところまで走った。お母さんはとなりのおばあさんと話していた。
 ボクがお母さんの後ろにかくれたらお化けはギョロギョロと目をうごかしてたけど、すぐにどっか行っちゃった。たぶんボクが見つからなかったからだと思う。

 そんなことがあったからボクはお化けは目が合ったら追いかけてくるものだと思っていた。

 でもこのまえ見たお化けは変だった。

 お化けがお化けに追いかけられていたんだ。

 小さい男のお化けが、あの大きな男のお化けを追いかけてた。お化けは人を追いかけるものだとすっかり思いこんでたけど、こんなこともあるんだね。

 正体も、追いかけ、追いかけられる理由は分からない。大人も「ほっとけばいい」ってばかりで何も言わない。でも「関わるな」って言わないから危ないものじゃないってことなのかな?

 でもボクを追いかけてきた大きなお化けはもう見たくないな。ずっと追いかけられてろって思う。

 1994年8月13日の日記

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