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芹沢怜司の怪談蔵書「38.大木の呪い」

「天使と悪魔、どっち選ぶ? 私は当然悪魔を選ぶよ」
「僕も悪魔にします」
「どうして? 君なら好奇心のままに天使を選ぶじゃないか」

 そして私が止める流れ――これがいつもの私たちだった。

「本の完成を見届けたいんですよ。調査はその後でも良いでしょう?」
「そうだね。じゃあもう一本いこうか。明日には決着をつけたい。今日は寝ずに怪談話をするよ」
「僕たち、どう見ても不審者ですねぇ」

 大丈夫。今日はみんなテレビに噛り付いているはずさ。

「人目の付かない場所にしか行かないから大丈夫だよ」

 口には出さない。正体を暴く行為――それは死を意味する。

 ※ ※ ※

「この辺お札だらけで気味が悪いですね。ギィギィって音も聞こえるし……こんなところを通ってまで、どこに行くんです?」
「この道の先、大きな枯れ木が見えるよね。あそこで話すんだ」

 住宅街を抜けた先にある大木。周囲はフェンスに囲まれている。
 この町の住民がわざわざ怪異に巻き込まれそうなところに来るはずがない。被害に遭う人はいないだろう。

「さあ、喋ってないでキリキリ歩くよ」
「昼は疲れていたのに元気ですねぇ……」

【大木の呪い】

 呪われた木というものがある。

 その木は最初から呪われていたわけではなく、悍ましい儀式などが行われた際にたまたま近くに生えていただけの存在だった。
 一回だけなら呪いにかからないだろう。しかし何度も何度も傍で儀式を行われると、徐々に浸食されていき、誰も気が付かないうちに呪いの木へと変貌してしまう。

 甚大な被害を出した大木が存在する。
 
 事の発端は住宅地を増やすための伐採計画だった。人が集まると土地が必要になる。邪魔な木は伐採しなくてはならない。呪われた木の存在は誰も知らなかった。これが悲劇に繋がってしまったのだ。

 被害は業者家族にまで及んだ。

 伐採初日。最初に木に触れた人がその日の夜に倒れた。救急車で運ばれ、数日後に死亡。死亡してから三日後、家族全員が気分が悪いと訴えかけ、幼い子供が亡くなった。

 二日目。チェーンソーの刃が切り込みを入れた瞬間に折れた。刃は重力に逆らって宙を舞い、切り込みを入れた男性の頭に刺さった。勢いは止まらず真っ二つに切断。その日の作業は中止になった。二日後、入院していた彼の母親が亡くなった。

 三日目。打ち合わせ中に従業員全員が体調不良を訴え、その日の作業は中止。何人かは病院へ運ばれた。翌日、入院していた人が黒い血を吐き出し、さらに全身からも血が吹き出し、処置する間もなく死亡。従業員の家族も何人か入院することになった。

 四日目。これはさすがにおかしいと思った責任者が呪いに詳しい人に調査依頼をした。
 調査の結果、木の周辺で動物の骨や虫の死骸などが発見された。それはとても小さく、注視しなければ見つけられないほどだった。見る人が見れば分かる――これは呪術の痕跡だ。

 調査結果を報告した後、責任者は自殺。調査をした人も遺書を残して失踪。後に釣り人が遺体を発見する。彼らの身に何が起きたのか……それは伝わっていない。

 この木はいまだ存在している。フェンスで囲まれて入れないようになっているが、時折無謀な人が入り込んで家族を巻き込んで亡くなっている。
 大々的に報道されることはない。地方新聞の片隅に載っているか、風の噂で人が死んだと聞くぐらいしか知る方法はないのだ。言論統制でも敷かれているのだろうか。

 ともかく、フェンスがあったら内側には入らないことだ。そもそも理由があって立ち入りを禁止しているのだから入らない方がいい。

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