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芹沢怜司の怪談蔵書「5.死者用マニュアル本」

 あの地域、相変わらず行方不明者が多いみたいだね。そうそう語り部の彼、執筆した後にもう一度あの地域に行ったらしくてね。そのまま帰らぬ人になったようだよ。なんで行ったんだろうね? 死にたくなったのか、それともやっぱり手に惹かれてしまったのか……。
 ちなみにホテルは営業停止になったよ。宿泊客の行方不明が相次いだからね。従業員の数も減って回らなくなったんだろう。近いうちに取り壊しになるんじゃないかな?

 ガラガラガラ

 おや。隣の部屋の窓が開いたようだね。ちょうどいい今しがた出て行った本の話をしよう。
 死後の世界って信じるかい? 私は信じている。幽霊がいるのだから死んだ後にも意識があり、自分の意志で留まるか成仏するか選択できるはずだ。大抵の人は幽霊を見たことないから信じられないかもしれないけどね。
 天国とか地獄はあるかどうかわからない。あったら面白いなと思う。まあその話は置いといて、死んだ後にも世界が続くのなら案内ぐらいはほしいと思わない? 残念ながら生きている人間には死後どうしたらいいのかなんてわからない。そんな悩める生者のために書かれたのが『死者用マニュアル本』だ。誰が書いたかは知らないけどね。でも存在しているのは事実だ。隣の部屋に保管してあるからね。しばらくしたら戻ってくるはずだよ。

 この本に関する話が一つだけある。死者用マニュアル本は一ページでも読んだら五分後には窒息死してしまうんだ。普通の人だったら一文字も書けずに亡くなる。この話の作者はとんでもない根性をしている。それほどまでに死者用マニュアルの内容を少しでも世に知らせたかったんだろう。尊敬に値するよ。


【死者用マニュアル本】

 ついに危険な本を読んでしまった。息が苦しい。本を読んだら死ぬという噂は真実だった。

 読んだ人は数分で死ぬから本の内容は誰も知らなかった。だからこうして記録する。偉業を成し遂げるのだ。

 オレが読んだ部分では死んだらどうなるかについて書かれていた。

 死んですぐ魂だけとなり人生で一番輝いていた時期の容姿になる。

 ほとんどの人は自分が死んだと理解して成仏する。しかし強い恨みや未練を持つ人はその場に留まろうとする。これは良くない。
 感情に自我が飲み込まれる。やがて怨霊あるいは地縛霊と呼ばれる存在になる。元の人格は消え去り、生きている人間に危害を加えようとする。大体が故意だがたまに悪意がないパターンもあるらしい。

 読めて良かった。本当は全て書き写したかったけどオレにはもう時間がない。ここまでだ。恨みも未練もない。人に迷惑をかけるのは嫌だ。潔く成仏しよう。

 自殺志願者はぜひこの本を読んでほしい。できれば少しでも本の内容を世に出してほしい。きっと人類のためになる。

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