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芹沢怜司の怪談蔵書「17.無人コンビニの商品」

 もう寝ないと明日に響く。しかし寝室に観測者と願いを叶える闇がいるかと思うと、どうもにも足が動かない。
 知人は儀式に巻き込まれずに済んだだろうか。便りがないのは元気な証拠というが、生死がかかっている場合は便りが欲しいところだ。

 以前も眠いのに寝室に行きたくない状態になったことがある。理由は覚えていない。気分転換に外出をしたときに遭遇してしまった『コンビニ』のおかげですっかり吹き飛んでしまったからだ。

 あのコンビニは今どこにいるのだろう。怪異が集まっているこの状況だ、せっかくだから近くに呼び寄せてしまおうか。私はコンビニが傍にあっても影響はないからね。
 普通の人にはまったく害のないコンビニ。でも、商品を盗んでやろうなんて考えが少しでも頭をもたげたのなら絶対に入ってはいけないよ。


【無人コンビニの商品】

 無人販売所を見たことあるかな? 田舎ではそこそこ見かけるもので、主に採れたて新鮮野菜を売っているんだ。スーパーでは見かけない巨大大根を見たときは思わず買ってしまったね。

 昨今では技術の発達で無人のものが増加している。無人レジが導入されたときは四苦八苦したよ。なかなか操作が覚えられなくて後ろの客に無言で「早くしろ」と圧をかけられたこともある。
 いずれは全ての店が無人になるんじゃないかな。私はそこまで生きられないけど、考えるだけでワクワクする未来だ。

 日本ではまだまだ普及していない無人店舗。実は怪異ではすでに取り入れられている。『誰もいない』というのは定番だからね。
 私が過去に遭遇したのは無人のコンビニだ。最初は寝ぼけていたからそれが怪異とは露程も思わなかった。

 深夜だったからレジ周りに店員がいないのに違和感はなかった。田舎では夜に人がやってくるのは稀だからね。私が怪異だと気付いたのは商品をレジに持っていこうとしたときだ。

 人が入ってきた。中年の男性だった。
 彼はキョロキョロと辺りを見渡すと、近くにあった商品――確か栄養ドリンクだったかな。それを取って懐に入れたんだ。
 盗人だった。誰もいないと判断して盗みを働いたんだろう。実際は私がいたのだけれど、ちょうど彼の死角になるところにいたから気付かれることはなかった。しかし……彼が私の存在に気付いて盗みを止めていたら死ななかっただろうに。

 商品を盗んだ男はコンビニを出ようとした。あと一歩で外に出られるところまできて、防犯ブザーが店内に響き渡った。あまりの大音量に耳が壊れるかと思ったよ。
 男は驚いて慌てて外に出ようとした。だが、顔が外に出た瞬間――。

 ぶちゅり

 何かが潰れる音。男の首が自動ドアに挟まれていた。自動ドアは首が挟まっているにもかかわらず閉じようとしている。よく見たら自動ドアに鋭い刃が歯みたいにズラリと並んでいた。まるで生物の口だ。

 私は男の死を横目にコンビニから脱出する術を考え始めていた。人の死を悼む前に自分が無事に脱出しないといけないからね。
 まずは会計を済ませることにした。男はお金を支払わずに出ていこうとしたからね。商品を盗んだのが理由なら、ちゃんと払えば助かる可能性が高い。

 勝手にレジを使うのも憚られたので店員を呼んだ。出てきたのは女性で、一見普通の人だったけど男の惨状には目もくれず、にこやかにレジ対応を始めた。

「ありがとうございます」

 レシートを受け取りお礼を言う。

「お帰りの際はレシートを出入口上部の目にお見せください」

 自動ドアの上――目を向けると大きな目がじっと男を見下ろしていた。どうやらアレにレシートを見せないと男と同じ目に遭いそうだ。

 私はわざとらしく目にレシートを見せつけながら外に出た。遠くから「ありがとうございましたー!」と、店員の元気な声が聞こえてくる。

 一歩、二歩と進んでから後ろを振り返る。

 男の死体と共にコンビニは姿を消した。

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