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芹沢怜司の怪談蔵書「36.吉夢のような悪夢」

「戻りましたよー。怜司さん起きてますか?」
「…………」
「おや……熟睡ですね」

 寝ているのならもう一つぐらい話そうか。自身に怪異が現れたとき、この人はどんな反応をするのだろう。ちょっとした好奇心だ。

【吉夢のような悪夢】

 悪夢を見たことがございますでしょうか。

 恐ろしい夢を見た後は心臓が激しく音を立て、数秒は夢と現実の境目が不明瞭になることでしょう。

 今から話すことは夢の世界から抜け出せなくなる悪夢です。特に目の前の欲に抗えない人たちには麻薬以上に危険なのです。

『悪夢』と定義するには少しばかり『吉夢』寄りではございますが、現実に戻れなくなる時点で悪夢と言って良いでしょう。

 その悪夢が世の中に知れ渡ったのは生還した人が出現したからです。以前は眠るように亡くなっていたので、寿命、或いは原因不明の突然死として扱われてきました。それがまさか夢に原因があったなんて……当時発見した人々はさぞ驚いたでしょう。

 肝心の内容なのですけど、この悪夢は人によって変わります。大好きなスイーツに囲まれた夢、天才になってチヤホヤされる夢、世界を支配する夢、お金持ちになって豪遊する夢――まったく同じ夢はありません。しかし一つだけ、共通点が存在するのです。

 同じ人が見ているのです。

 悪夢を見た人はみんな口を揃えて言いました。

 「女の人を見た」と。

 特徴をあげさせてもらうと見事に一致していました。
 彼女の目的は一切不明です。なんのために悪夢を生み出しているのか、どうして手を出さず見ているだけなのか。少なくともわたくしは知りません。関係者が軒並み口を閉ざすからです。

 そんなものだからわたくしは悪夢を見たいのです。

 素晴らしい夢を見てしまったせいで死んでしまったとしても。誰にも伝えられずに亡くなるのは少しばかり残念ですが、胸の内にしまっておくのも悪くはないでしょう。しかしわたくしは夢を見るための条件を知りません。

 どなたか、わたくしのために悪夢を見る方法を教えてくださいませんか。
 
 わたくしの連絡先はこちらです。
 
 090-××××-○○○○ 東雲 星羅


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