芹沢怜司の怪談蔵書「9.観測者」
知人から連絡があった。どうやら無事に町に到着したようだ。これからホテルに荷物を置いて、壁の中から声が聴こえるアパートと町に蔓延る怪異の調査をするみたいだよ。
さ、次の本当にあった怪談話は……そうだな、これにしよう。明確に害があるものも怖いが、まったく何もしない怪異も不気味で、怖いんだ。
【観測者】
誰かの視線を感じたことはあるよね。生きている人間が見ていたのなら自分に用があるのかな? と思うけど、幽霊相手ではどうだい。
言葉を発しない。ただ見てるだけ。危害を加えるわけでもない存在は何を考えているかわからなくて怖い。人間は未知のものに恐怖を抱くようにできているからね。当然私も怖い。
彼? 彼女? が佇んでいるのは公園の噴水の前だったり、車道の真ん中だったりと決まった場所がない。
姿は炭みたいに真っ黒。もやもやとした黒い霧に包まれているから全容が知れない。でも視線を感じるんだ。いったい何を見ているんだろうね。
判明しているのは現れる条件と見ている対象だ。そいつはニュースになるような大きな事件が起きる直前に出現し、事件に巻き込まれる人を見る。そしていつの間にか消えてるんだ。まるで野次馬だね。
目的も正体も不明。今もどこかで見ているのかもしれない。大事件が二つ同時に起きたらどうなるんだろうね。分身するのかな。
私はこういう正体不明なものが怖くて怖くて夜もぐっすり眠れる。だから知りたいんだ。
どうして君は観測しているんだい?
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