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芹沢怜司の怪談蔵書「16.交換の儀式」

「本の反応はどうでしたか?」
「芳しくなかったよ。今までは読み聞かせた怪談話がそのまま記載されていってたけど、今回は冒頭に『"特別"に危険性が低い物語を紹介しよう』と書かれていた。つまり二度目はない、ということだね。やはり怪談というからには少しでも命懸けになった方がいいわけだ」
「ということは、追われる霊や観測者も実は危険だったということですか?  危ないとは思わなかったんですけど」
「そういうことになるね。私たちが気付いていないだけで、あるアクションを起こすと死ぬかもしれない。まあ追及はよそう。今は怪談話を増やすことが先決だ。勝手に調査にはいかないでくれよ」

「そういうわけだから今後の調査はより一層警戒を怠らないでほしい。本が所望している怪談は44話だ。まだ半分も到達していない」
「個人的にはもう15話か……って感じですけどね。でも、これからドキドキするような怪談を調査できるのは嬉しい限りです。さ、次は何を調査しましょうか?」
「今日は1日かけて『交換の儀式』を調査してもらいたい。今から集落に行けば間に合うはずだ。君の性格なら大丈夫だと思うけど気を付けるんだよ」
「おっ! ついにこれですか! 心配は無用ですよ、無事に帰ってきます!」


【交換の儀式】

 幽霊は恐れられているだけじゃない。神のように祀られているケースもある。
 とある集落では望んだ肉体の一部を『交換』によって手に入れられる儀式が盛んに行われている。
 他人の肉体を見て羨ましいと思ったことはあるかな? コンプレックスを感じている部位があるなら交換してほしいと思うこともあるんじゃないかな?

 そんな思いを叶えてくれるのが『交換の儀式』だ。

 この儀式、実行者にはなんのデメリットもない。問題は交換の対象となった人物だ。
 儀式に成功すると肉体の一部分だけではなく、命までも奪われてしまう。力を行使する幽霊側にメリットがないとおかしいからね。交換を願った人間は望んだ肉体を手に入れ、幽霊はエネルギー補給のために命を奪う。選ばれた人間……贄と言ったほうがわかりやすいか。選ばれたら悲惨な目に遭うのは確定だ。

 では選ばれたらどうしたらいいのか。
 あまり知られていないが回避方法はある。良心が痛む人も多いだろうけと、別の人になすりつけることができるのだ。
 方法は以下の通り。

 ・贄に選ばれたら体の一部が黒くなり、痛み出す。
 ・交換されるまで5分ほどかかるので、その間に交換部位を他の人に触ってもらう。
 ・そうすると自分は元の状態に戻り、触れた相手の交換部位が黒くなり痛み始める。
 ・相手に触れたらまた自分が対象になるので5分間逃げる。

 理論上はこれを延々と続ければ儀式の完遂は防げるが、知名度が低い上に必ず心優しい誰かが犠牲になる。5分の間になすりつけ対象を見つけられないこともある。
 そもそも集落に行かなければ贄として選ばれることはないけど、万が一迷い込んでしまったときは、常に誰かと一緒に行動をし、罪の意識を捨てると良いだろう。

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