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4407文字 〜占い館・呪い館へようこそ~第2話 #創作大賞 #ホラー部門

※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

第1話【4360 文字
死に場所を求めて


死にたい。
ポツリと溢れた。
 

口を開けば、同じ言葉を繰り返していた。

うつ病になって何もできなくなった。趣味だった映画も、漫画も興味がなくなり、日光浴でさえできなくなった。

不幸なニュースが流れるたびに、自分だったら良かったのにと思った。この人達の命と自分の命が取り替えられたら。そんな不適切な事を考えてしまう。


テレビでは昨日、高速道路で衝突事故があった様子が報道されている。トラックにぶつかった車。夫婦は体を強く打って……現場で死亡を確認。即死だったのだろうか。羨ましい。どうやら後部座席の子供達は無事のようだが、これからの事を考えると子供達の方が可哀想に思えてくる。


食事もできない。本当にめんどくさい。しかし薬を飲むために摂取しなければならないならない。食べても全く喜びを感じなくなっていた。

日々自分が生きているのが辛く、自分なんかが生きていては申し訳なくなってきた。

辛くて、辛くて食事の量は減るのに反して処方される薬の量は増えていった。

自分を傷つける行為を繰り返し、それでも自分を許せる事ができなかった。


心療内科の帰り道、いつもは興味なく通りすがる『占いの館』の看板がなぜか気になってしかたがなくなった。

占いを特に信じているわけではなく、テレビで流れる星座占いも、特に気にしてはいなかった。しかし今日はなぜか無性に気になってしまった。

『占いの館』は雑居ビルの3階。吸い込まれるようにエレベーターに乗り『3』を押していた。

扉が開くと目の前に『占いの館」の扉。磨りガラスから暖かな灯りが漏れていた。占いのメニューが張り出されていた。タロット、手相、星占い、風水……と、知っているものから、聞いたことない占いまで多数の種類があった。料金も想像していたくらいだった。しかしどれを選べばわからなかった。

ここまできて、何を占ってもらうのか。数分悩んだ後、私は「死ぬ場所」を占ってもらうことにした。

これならば初回料金内で収まるだろう。複雑な気持ちで扉を開いた。

占いの館は想像と違い和風の装いで統一されていた。1段高くなったフロアーに畳が敷かれた床、壁に掛けられた書のアート、そして柔らかな照明が、なんだか不思議な空間のようだった。部屋から流れる小さな水の音。リラックス出来る空間。

この時の私は占いで「死期」を占うことが禁忌だとはしらなかった。だからこそ占い師に悩みを打ち明けられたのかも知れない。

占い師は、落ち着いた感じのオジサンだった。シンプルな着物姿で、占いの館の雰囲気と調和していた。テーブルには様々な占い道具が丁寧に置かれていたが、その中でなんとなく鮮やかなタロットカードのセットは、似合わないないように思えた。その他にもよくわからない棒や分厚い本が置いてあった。案内されて占い師と対面して座った。


「あの……初回のコースでお願いしたいんですが」
と私が言うと占い師が
「まずは四柱推命で占ってみようか。」
と運命を占うための古く分厚い本を開いた。

「ここに名前、生年月日、生まれた場所を記入してくれるかな」
そう言って渡された少し厚みのある用紙に私は一つ一つ記入していった。

記入している間に、生年月日と出生時間で、性格や運命を占う中国の伝統的な方法である事、その上で占いを始める事を説目してくれた。


記入し終わった用紙を渡すと、用紙に何か書きこんでいった。書き終わると
「何を占いますか?」
と優しく聞いてくれた。

「あ…あの、私、死にたいんですが、どこで死んだらいいですか?」
真剣に聞いた。

「占いでは、人の死を占う事はしないんですよ。でも、貴方はそれにしか興味がないみたいですね。」
そこで初めて、占いにも占ってはいけないことがある事を知った。

「あ…じゃ…あ…。どうしよう」
思いつかない。死にたい。
楽に死ねる方法、死に場所しか考えていなかった。

「ちょっと待ってね」
そう言って占い師は再び分厚い本を開いて
メモ用品に書き加える。

「生年月日あってるよね?」
確認された。
「はい。ちゃんと書きました。あのぅ……やっぱり、こんな迷惑ですか?」

なんだか、申し訳なくなってきた。

「いやいや大丈夫ですよ。色々な方がいらっしゃいますから」
と言ってもらえて、なんだかホッとした。

占い師に、両手を見せて下さいと言われて左右の手のひらをテーブルに広げた。

手が荒れていて皮がめくれてボロボロだったので恥ずかしいというか、こんな手のひらを見せて気持ち悪いと思われるような、申し訳ないような思いをしながら、両手を開いてみせた。

「ボールペンで、線引いても平気?」
と聞かれたので
「大丈夫です。お願いします!」
と答えた。

それから手相を見てもらい過去の事、未来の事はこの線でみるんだよ。と説明してもらった。



「でもね、おかしいんですよ。」
占い師が私に言う。

え?なに?なにが??

「コレとコレね」
と占い師が指さす分厚い本の文字と手相。
そして占い師が
「あなた去年死んでるはずなんですよ」
と私に言った。

「………ん?…え?と……」
なんて答えていいかわからなかった。

いやいや、生きてますよ私。

占いの結果、どうやら私は去年自殺していたようだった。

残念ながら私は、その絶好の自殺のタイミングを逃してしまったようだ。生命線がよく伸びていて良い線だと褒められた。

なんだか、うん。なんだかよくわからないが
複雑な表情を私はしていた。


どうしようか?このまま帰る?何しに来たんだろう。モヤモヤとした気分になってきた。


迷っている私に占い師が、
「それならば、のろいますか?
と穏やかな口調で、まるで飴食べますか?みたいな調子で話し始めた。

死にたいと思う自分自身を呪う。
そんなに事が出来るとは知らなかった。

「呪うのには道具がいるんですが」
そう言われ、これが悪徳商売の占い師かと疑った。頭の半分では、インチキ占いに来ちゃった。という感情と、どうせ死ぬなら面白いから呪ってみればという感情が湧いていた。

占い師が数点のブレスレットが置かれたトレーをテーブルに置いた。

紐だけのシンプルなモノから、悪霊でも倒せそうな大きな宝石みたいな珠のついたもので8種類くらい。

シンプルな、紐に玉が1つ付いたデザインのモノの値段を訪ねると3000円だと告げられた。初回料金と合わせると4000円。
悪徳占い師にしては良心的だし、最後の買い物にはいいかもしれない。


気にいったブレスレットを手にすると、ブレスレットの玉の色が変わったような気がした。

「では呪いましょう。先程の自分の名前の欄に血判を押していただけますか?」
そう言われてビックリした。
確かに呪いっぽいけど、よほど驚いた顔をしていたのか、占い師は微笑みながら
「呪いの契約ですから、傷は残りません」
と言うと私の左薬指を握りしめた。

ポタリと自分の名前の上に落ちる赤色。
ゾクリと背中の産毛が立ったような感触。
ヒヤリとした空気に包まれた。

占い師が手を離すと、左指に傷は見つからなかった。痛みも感じなかった。ただ不思議な感じがした。なんとも言えない奇妙な感じ。


会計トレーに4000円を置きながら
「このブレスレットが切れた時、
私死ぬんですか?」
と聞いてみた。
「はい。呪ってありますから」
笑顔で答える占い師。
うん。なんて気持ち良く騙すのだろう。私はちょっと笑いそうになりながら、会計を済ませた。

その場でブレスレットをつけて占いの館の扉を開けた。

エレベーターで1階に着いた。来たときと変わらない風景。なんにも変わっていない。ただ、今日は久しぶりに歩いて帰る事にした。


途中、私は去年死ぬ予定だったのかー。と真っ青な空を見ながら呟いた。

うん。そうか。
なんで生きてるんだろー。
泣きながら笑っていた。


悩んでても仕方ないのか、自殺が成功しないなら、自殺するのやめるか!!このブレスレットが私を殺してくれる。それならばその時まで私は生きてみよう。

生きてれば死ねる。
死ねるなら生きてみよう。


生きると決めたら、なんだか布団の中で丸まっているのがもったいない気がしてきた。

私は死ぬ場所を求めてアルバイト先を探した。いつ切れるか分からない紐はアルバイト先でも日常生活でも切れることがなかった。

普通に生活できる日々が続き、アルバイト先で出会った人に告白された。でも彼は結婚している人だった。

どうせ死ぬなら不倫をしてみてもいいかもしれない。もし奥さんに問い詰められたら自殺して逃げればいい。死ぬ理由がある方が死にやすい。

彼とは週1~2回ほどの頻度で合った。不倫なのかセフレなのか付き合っているのかどうかわからない関係だった。

それでも、私の事を抱きしてくれる彼に徐々に好意を寄せていた。

仕事で辛い事があっても、話を聞いてくれる彼がいる。優しく抱きしめてくれる彼がいるのが幸せだと感じた。

好きになっていた。そう自覚し始めたが、不倫のような関係。いつ別れるかわからない中途半端な関係。でも、不安定な私にはそのくらいの関係が似合っているような気がした。


いつもと同じ。ベッドでの行為の後。シガーキスを交わした余韻に浸っていると、彼から小さな箱をもらった。
「プレゼント」
開けてみるとシンプルな指輪が2つ。

「え?」
「結婚はできないけど、ホラこれと似てるし妻にバレる事はないよ」
と今までつけていた結婚指輪を彼は外しプレゼントと渡された2つのうち大きい指輪を取り出し左手の薬指につけた。

そして、小さい指輪を私の左指につけた。

結婚する気はない。とはっきり言われたのに嬉しくて涙がでてきた。悲しくて流す涙でも、演技でもない涙。

実らない恋でもいい。
亜弓あゆみは仕事中外していいからね。俺の気持ちを伝えたかっただけだから。」
そう言われた。


確かに仕事場で私が指輪をつけていたら周りにビックリされるだろう。仕事場で着替える際に外した指輪。内側に「T to A」と彫られていた。なんだかソレを見るだけで嬉しくなった。紐のブレスレットと一緒にサイフに入れてロッカーにしまった。

その日からなんとなく仕事に集中できなくなった。それは怖くなったから。大希たいきの愛を知って、自分も大希のことが好きになっていたから。

やっぱり落ち着かないので、大希と合う前に「占いの館」に向かった。

ブレスレットを返そうと思った。怖かった。死ぬのが。幸せを知って死ぬのが怖くなった。悪徳商法だと思う。きっと嘘なんだと思う。でも違ったら。そんな思いで『占いの館』に向かった。


雑居ビルの、三階。ビルの案内版には「テナント募集と紙が貼られていた。

嫌だ。
死にたくない。
幸せになりたい。私の真実を打ち明けても、受け止めてくれた大希のそばにいたい。



私はビルの下。外したブレスレットを握りしめて真っ暗になっている三階の窓を見上げた。


死にたくない。
ポツリと溢れた。


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