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〈KTきよすなゴシック〉使ってみました

 今年の1月1日に公開されたフリーフォント〈KTきよすなゴシック〉を使ってみたので,レポートいたします。

 なお,私はフォントの専門家ではありませんし,もじ界隈のみなさんの方が私よりもずっとフォントに関して詳しいです。私はデザインを学ぶいちユーザーとして,フォントを使用してみた所感を記したに過ぎませんのでどうか悪しからず。情報は,2024年1月5日時点のものです。不備があれば教えてください。

フォントについて

〈KTきよすなゴシック〉は,2024年1月1日に公開されたフリーフォントです。制作者は,kohakunoさん。私自身,X(旧Twitter)でお世話になっており,制作の過程も度々共有されていました。これまで,kohakunoさんは欧文書体はフリーフォントとして公開されていましたが,今回初の和文書体ということで,私はとても楽しみにしていました。

 書体としてのジャンルは,その名の通りゴシック体。欧文書体的に言うと,サンセリフ体です。ウエイトは「Light」「Bold」の2種類です。漢字は,〈Zen Kaku Gothic〉を使用しているそうです。

2種類のウエイト(Light・Bold)による例文の比較。

 kohakunoさんの〈KTきよすなゴシック〉公開時のツイートを以下に載せておきます。気になった方は,ぜひリンクにアクセスして,ダウンロードしてみてはいかがでしょうか。

ココがおもしろい

 試しに文章を打ってみますと,まずコロッとしたフォルムが目に留まります。タイピングに合わせて,かながコロコロと並んでいく印象を受けました。このコロコロ感は,伸びやかな曲線に由来しているものと思われます。

 書体見本に書いてあるコピーに「幾何学で朗らかな和文」というものがあったのですが,確かにこの朗らかさがしっかりと文字に表れています。

かなはコロッとしたフォルムが印象的。

 では,欧文はどうでしょうか。ふむふむ,アルファベットも同じようにコロっとした曲線でつくられています。試しに英語のことわざを打ってみました。

「転がる石には苔が生えぬ」イギリスの古いことわざです。

 おやおや,これはどうしたことでしょうか。英文を組んでみると,とてもクールなことに気がつきます。文字一つひとつを見てみると可愛らしいフォルムをしているのですが,みんなで整列してみるとキリッとして見えるのです。長い文章だとなおさらです。もうホントに,隊列を組む英国の近衛兵のようにキリッと整っていてカッコイイのです。

 これは引きで見ることで,直線部分は真っ直ぐ,曲線部分は滑らかに,というようなジオメトリック・サンセリフとしての特徴が前面に出るからだと思います。ジオメトリック・サンセリフと聞くと,私はすぐ〈Futura〉〈Avenir〉を思い浮かべますが,文字単位と文章単位とでここまで印象が変わるのは〈KTきよすなゴシック〉欧文独自の特徴なのではないでしょうか。

 他に特徴として挙げられるのは,菱形のドットです。ピリオドはもちろん,クエスチョンマーク,果ては「※」にまで,菱形がこんにちは。遊び心のある意匠ですが,これが全く嫌味になっていないのです。むしろこの菱形のエッジが,朗らかな文字の流れにビシッとリズムを刻んでくれています。

ドット部分が菱形になっていておもしろいですね。

さらにマニアックなお話

 とにかく欧文と約物(記述記号類)が充実している印象を受けました。

 例えばフランス語には,アルファベット(フランス語的にはアルファベ)にアクサンという特殊な記号がくっつくことがあります。これは発音の違いや同音異義語を区別するためといった役割があります。このようなアクサンつきのラテン文字が〈KTきよすなゴシック〉にはちゃんと収録されているのです。ちなみにフランス語を例に挙げたのは,ほんの少しだけですが勉強したことがあって目についたからです。他の言語についての文字の詳細はわかりません。

フランス語の例文です。
文法が間違っていたらこっそり教えてください。

 ちなみに私が現在制作中の〈紙モノゴシック〉には,ええ,もちろんそのような記号類は入っておりません。

 さらに〈KTきよすなゴシック〉には,OpenTypeフィーチャーが搭載されています。これは簡単に言うと,文章を組むときの便利機能です。例えば,アルファベットの形にバリエーションをもたせ,用途や好みに合わせて選んで使えるようになっているのです。その他にも,色々と機能があるようですが,私もそこまで詳しくないので,気になる方はご自身でお確かめください。

「a」「g」の形の違いは一階建て・二階建てと呼ぶことがあります。

 もちろん以上のような字種や機能は,大手ベンダーがつくった商業用の書体であれば,収録・搭載されていても珍しくはありません。しかし,フリーフォントとしてこの充実っぷりというのは,驚くばかりでございます。

フォントの用途を空想してみる

〈KTきよすなゴシック〉は,柔らかく朗らかなフォルムと,幾何学的でモダンな側面の両方を活かせる場面で,その良さを発揮できるのではないでしょうか。私が思いついたのは,以下のようなシチュエーションです。

駅前の再開発によって誕生した都市公園のサイン計画
 市が推し進める市街地の再開発に伴って,古くから駅前にある公園がリニューアルされました。オフィスビルの立ち並ぶ周辺環境に調和するモダンなデザインに一新し,夜間でも明るく安全な場所を目指しています。
 子どもからオフィスワーカー,お年寄りまで,幅広い年代の人々が集う憩いの場としての公園を,モダンながら優しく朗らかな印象を与える〈KTきよすなゴシック〉でアピールします。公園内のサインや広報物のメイン書体を〈KTきよすなゴシック〉とすることで,公園としての個性と統一感をもたせます。

「きよすな駅前ひろば」なんて公園は存在しませんから。
地図で探しても無駄ですよ。

 上記のお話は全て私の空想でございます。フィクションです。性格上,フォントからこういう妄想を色々としてしまうのです。

 もちろんこれ以外にも,〈KTきよすなゴシック〉が輝く場面は沢山あるはずです。現実の色々な場面でこの書体が見られるのを,私はとても楽しみにしています。

まとめ

 使ってみたと言いましても,簡単に文章を組んでみただけですから,これから色々な場面で使っていく中で,〈KTきよすなゴシック〉の新しい魅力に気づくかもしれません。
 文字一つひとつの表情を見ても良いですし,OpenTypeフィーチャーを色々といじってみるのも楽しいと思います。ぜひみなさんも,ダウンロードして使ってみてはいかがでしょうか。個人的には「&」と「@」の字形のクセがとても気に入っております。

クール過ぎる「&」と「@」です。
これを使えるようになるだけでもダウンロードする価値があります。

 ではまた宇宙のどこかでお会いできれば。


今回ご紹介したフォント:KTきよすなゴシック

 制作者であるkohakunoさんのBOOTHページを載せておきます。ステキなフォントをありがとうございました。


 ちなみに,私も制作したフォントをBOOTHにて無料で配布しています。無償・商用利用問わず自由にお使いいただけます。興味があればぜひダウンロードしてみてください。更新情報などはSNSでお知らせしているので,もし気に入っていただけた際はフォローよろしくお願いします。