鳥になった子

ああ、高く空をはばたけ
信じよ 我が神を
山より高く 沼より深く
私たちをお救いになった
御恩を決して忘れるな
おお、鳥の国
決して廃れぬ 希望の光

カチャン。と、コーヒーカップを置く音が響く。
部屋の中には、私と、彼女の2人きり。
普通の大学生なら、テレビを付けてだらだらする場面である。
私たちはテレビどころか暖房を付けるのも忘れ、会話に集中していた。

「行ったことあるの?」

「韓国?行ったことあるよ。
でも、街中は行ったことない。
小学生の時。どこかの、山の上だった。
はっきりと覚えてる。
すごく寒かったし、霧がかかってた。
真っ白な雪を、何足もの真っ白な靴が踏んでいた。
お母さんが私の前にいて、お父さんが後ろにいた。
何百人もの人が全員白い服を着て1列に並んでた。
私は小さかったから、前の方は全く見えなかったけど、誰がいるかはわかってた。
教祖様と呼ばれていた人。」

「なにをしてるの?」

「『 国家』を歌ってたの。」

「国家?」

「そう。鳥の国って、1つの国って認識なの。
おかしいでしょ。
韓国にいるのに、連中の中では、その山だけ違う国、『 鳥の国』って呼ばれてる。
その鳥の国では、いくつか儀式があって、
毎週日曜日の礼拝、夏のフェスティバル、
そして、私が覚えてる中で人生最初の海外旅行の、
冬の本山参拝。」

「それは、強制なの?」

「もちろん。
毎週の礼拝は、行く度に1人1回5万円、
フェスティバル費用は7万円、
韓国の参拝は、自腹で飛行機で行くんだけど、
行かない場合、1人10万円払わなければならない。
まあ、そもそも洗脳されてるし、
行きたくない人なんていなかったんだけど、
家族とか、本人の意思じゃない所で止められて、
欠席した時は、毎日のように玄関の戸が叩かれて、請求される。」

私は驚愕して、へえとしか言えなかった。

「ちなみに費用はそれだけじゃないよ。
聖書が1冊100万円。
日本語訳版が200万円。
教祖様の写真が1枚10万円。
その写真がうちにたくさん飾ってあった。」

「聖書?」

「鳥の国はキリスト系って主張してる。」

「へえ。」

「鳥の国にはこんな考え方があるの。
結婚前にやることは、とても汚らわしいことっていう。
でもそれだと結婚できないじゃんか。
だから、鳥の国で定期的に、『合同結婚式』が開かれるの。
まず、バスで25歳になった男の人は会場に全員集められる。全員タキシードを着て。
その後、ウェディングドレスを着た女の人もそこへ行くんだけど、
この時、男性の名前と写真が貼ってあるカードが配られるの。
そのカードを手がかりに、女の人はカードの男を探す。
出会えたら、その場で結婚式。
一斉に行われる。
この相手を決めるのは、教祖。1人で。
滅茶苦茶に決まってる。

そしてその翌日が、初夜。これも決められてる。」

こうして生まれたのが彼女だった。
二世と呼ばれ、両親に振り回される人生。
子供より、協会にお金をかけ続け、
現在は奨学金で1人暮しの大学生活を送っている。

この物語は、筆者が友人に聞いた、
ノンフィクションです。
※名前は全て創作です。

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