ストーリーよりも「背景」の方が興味深い小説:読書録「辮髪のシャーロック・ホームズ」
・辮髪のシャーロック・ホームズ 神探福邇の事件簿
著者:トレヴァー・モリス 訳:舩山むつみ
出版:文藝春秋(Kindle版)
ホームズのパスティーシュものは山ほどあります。
BBCのカンバーバッチのドラマが「ホームズが現代で活躍したら…」という設定で作られているのに対して、本作は「ホームズが同じ時代の香港に存在していたとしたら…」という設定。
ホームズが香港に来て活躍する…ってのじゃなくて、「福邇」「華笙」という中国人がそれぞれ「シャーロック・ホームズ」「ジョン・ワトソン」に割り当てられ、その活躍が描かれるというあたり、一捻りあります。(ワトソン役が書いた記録を編集者が再編したことになってるんですが、この編集者が「ドゥー・コナン」w。もちろん「コナン・ドイル」のもじりです)
6編の短編がおさめらているのですが、この時代の香港・中国をベースにした設定ながら、「福邇」「華笙」の関係性は、「ホームズ」「ワトソン」に対応して描かれています。
物語も正編を模したものとなっていますが、まんま写したものから、再編したものまであるようです。
僕はそこまでホームズ・ファンじゃないんで、
「あ〜、なんかこういうのあったような〜」
って感じでしかありませんでしたがw。
(アイリーン・アドラーが登場する「ボヘミアの醜聞」なんかはわかりやすかったです)
小説としては「ホームズのパスティースもの」としての面白さはもちろんあるんですが、僕個人としては、この時代の「香港」を舞台とした歴史小説としての面白さの方が強かったです。
物語が始まるのは1881年。
清国はアヘン戦争に敗北し、香港島を大英帝国に割譲してから約40年が経っています(南京条約が1842年)。
島嶼部だけでなく九龍半島等まで租借することになるのが1898年なので、作品の舞台はこの間の時期…ということになります。
西太后率いる清国が西洋(特に大英帝国)とのせめぎ合いの中で没落の途を辿りつつあるこの時期、「香港」という両者の接点となる場所で、清国(中国)の立場から事態の推移を見る…というのが本書の主人公たちのスタンスとなります。
取り上げられる事件にもそういう時代背景が色濃く反映していて、非常によく調べられた描写で、その時代の<香港>の姿が背景として浮かび上がってくる構図となっています。
なかなか凝った作品ですよ、これは。
作品としては「4部作」が予定されていて、第2作が完成しつつあるとのこと。
4巻目は1911年の辛亥革命の時代となるそうです。
面白そうやな〜。
…もっとも、2巻以降の翻訳がされるかどうかは何とも言えません。
売れ行き次第ですかね。
どうかな〜。
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