見出し画像

続編はないんだろうね。:読書録「かくして彼女は宴で語る」

・かくして彼女は宴で語る 明治耽美派推理帖
著者:宮内悠介
出版:幻冬舎

SF作家であり、三島由紀夫賞作家でもある宮内悠介が、アシモフの「黒後家蜘蛛の会」を模して書いた推理短編集。
明治末期に実在した耽美派芸術家の会「牧神(パン)の会」を舞台に、実際に集まった芸術家たちが「黒後家蜘蛛の会」のメンバーを担い、集う牛鍋屋(第一やまと)の女中「あやの」が探偵役の「給仕ヘンリー」のポジションになります。


作品は全部で6編。
う〜ん、「推理」小説としてはどうかなぁ。
「いや、それは強引すぎるんちゃう?」
ってのがなきにしも…。
でも、
「明治耽美派推理帖」
という副題からは頷けるものがあるし、そのテーマは明治以降、現代にまで届くところがあると感じます。



<「帝国が美と化した世界となれば、美は帝国と同化する。これが侮れないのは、ぼくらが本当に、本心からそこに美を見出してしまいかねないことなんだ。ではもし、帝国が危うい道を歩みはじめたら?それでもなお、ぼくらがそこに美を見てしまったら?どうあれ、美のための美は虚構ゆえに危うい。耽美では、政治に抗えない」>
<「それならば、美を政治化することで政治に抗うか?でもぼくは、たぶんそれに美を感じられないんだ。これが宿痾みたいなものでね。結局は好きなんだよ、白秋君の書くようなものが」>


美を政治化する


木下杢太郎の惑いに、「あやの」はその道を進むと答えます。
それが結実したのかどうか…



最終話はSF作家であり、三島由紀夫賞作家でもある宮内さんならではの「仕掛け」が施されます。
多分、「推理小説」としてはその「仕掛け」が瑕疵となってると思うのですが、宮内さんが書きたかったのはココなんでしょうね。
「作家」である自分自身としても。


「黒後家蜘蛛の会」はアシモフの死によって完結していますが、続けようと思えばどこまでも続けることができるシリーズでした。
その形を模した本作は、しかし「続編」を拒むラストになってます。
まあ、こんだけ調べながら書くのは大変だってのもあるでしょうがw。




#読書感想文
#かくして彼女は宴で語る
#宮内悠介

この記事が参加している募集

#読書感想文

188,902件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?