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「新しい資本主義」?w:読書録「アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?」

・アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か? これからの経済と女性の話
著者:カトリーン・マルサル 訳:高橋璃子
出版:河出書房新社



08年の金融危機を踏まえて12年に出版された作品。
翻訳は10年近く経って…なんですが、コロナ禍によって中身はビビットに伝わってくるものになってます。
まあ、10年間、特に進歩もなかったってことでもあるのかもしれませんが。



いわゆる「フェミニスト経済学」の視点から書かれた本で、

・経済学における「家事」の位置付けや、
・ジェンダーから見た家事を含めた「ケア・ワーク」の分担の在り方

なんて切り口は「フェミニズム」的なアプローチになるかも。
でも、そこで議論が止まるんじゃなくて、

・「格差」を産む新自由主義批判
・経済学が前提とする「経済人」の問題

あたりに課題認識を広げ、新自由主義や合理的・生産的経済人の思想が、個人に「内面化」してしまっていることへの危機感についても議論しています。
(ここら辺、能力主義に対するサンデルの課題認識に近いかもしれません)



コロナ禍は、「格差」の問題を露わにし、「エッセンシャル・ワーカー」「ケア・ワーカー」の存在は、その重要性を認識させつつ、「格差」「ジェンダー」「人種」の問題も浮き彫りにしています。
(エッセンシャルワーカーの担い手が、マイノリティや女性に偏っており、その賃金・処遇も恵まれていない…という点で)
本書の主張は、経済的・社会的に「女性的」とされているもの、「女性」が担っているものを、「経済学」に取り込んで行かなければ、社会や個人の幸福度は上がっていかない…っていうところにあるのだろうと思いますが、「今」見えるようになっているのは、まさにそういう事態であろうと思います。

(ただ危機が遠のくことで、その感覚も急速に摩滅しつつあるのかもしれません。
10万円給付に見るドタバタ騒ぎなんかを見てると…)




ケインズの評価が思ったより高かったり、リーマンショックの遠因に「ボウイ債」を紹介したり、個々のエピソードもなかなか興味深いです(アダム・スミスの家族の話とかも。ちなみに彼の夕食を作ったのは「母親」です)。
「フェミニズム」的視点の作品ではあるけど、視座は広いし、決して男性的原理に対する攻撃性が強く出てる作品でもありません。
「新しい資本主義」がどういうものかは分かりませんがw、その前提としてこういう視点があってもいいと、個人的には思います。

僕は結構興味深く読ませてもらいましたよ。




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#フェミニスト経済学

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