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ツイフェミとは設定してるスコープが違う感じかな?:読書録「最後の講義 完全版」

・最後の講義・完全版  これからの時代を生きるあなたへ 安心して弱者になれる社会をつくりたい
著者:上野千鶴子
出版:主婦の友社


NHKの番組「最後の授業」の上野さんの回を書籍化した作品。
出口治明さんとの対談は「教育者・教師」としての<上野千鶴子>の足跡を追ったような作品でしたが、本書の方は「研究者」<上野千鶴子>の概要をまとめた内容になっています。
両者ともに「活動家」<上野千鶴子>としての側面は抑えたトーンとなっているので、僕のようなノンポリには読みやすかったですw。
(もちろん、「教育者」「研究者」「活動家」の全ての側面が不可分なのは当然ですが)


「研究者」としての上野さんは「主婦学」からスタートしてるんですね。
家族・社会の中で「ケア」を担いながら、「労働」としての価値を認められることのなかった「家事労働」。
「家族」の中における「主婦」のあり方・役割の分析とその「価値」の数量化・明確化を追っていた上野さんが、今は「ケア」の研究と活動をしている。
「高齢者の介護・ケア」をフィールドとされていることは知ってたんですが、今ひとつその経緯がピンと来なかったのが、本書を読んで、「家族」というファクターを挟むことで、なんとなく繋がった気がしました。
別に「おひとりさま」の流れから…じゃないんですねw。


その視点から見れば、(十分とは言えないかもしれないけど)一定の成果は得てきている。
「家事労働」が<無償>でないということは社会的なコンセンサスを得てきていますし(数量化もされるようになっています。「逃げ恥」で取り上げられるくらいw)、「女性の社会進出」における社会構造の問題(「男社会」)についても認識は広がっています。
もちろん、十分ではない。
十分ではないけど、確かに「前進」している。
その一端を自分が担ったのだ…という自負が上野さんの強い姿勢を支えるものなんでしょう。
それはそうだと、僕も思いますよ。



上野さんの研究・活動のスコープには「家族における女性」(端的には「主婦」)という設定がされています。
上野さんが仕事を始めた時代から考えると、「家族関係」の中に埋もれてしまい、「ケア」を押し付けられていた「主婦」を、その頸木から解放することが、まずは優先された。
だからこそ「介護保険・介護制度」の誕生は(これまた十分ではないにせよ)画期的だったわけです。
それまで「主婦」に押し付けられていた「ケア」を「公助」で担うことが、制度として決定したわけですから。
上野さんの研究・活動の流れから言えば、これこそが最大の成果だと思いますし、彼女が「介護・ケア」を今の研究のフィールドとしていることが、そのことを裏づけてるんじゃないですかね。




最近、Twitterを中心にちょっとした騒ぎになってる「ツイフェミ」。
このフェミニズムの動きに対して、上野さんはどういうスタンスなのかなと、僕は気になってたんですが、「共感」はあるにせよ、そもそも突破しようとしている立ち位置が違うということなのかもしれません。
ご自身がおっしゃってる通り、上野さんは「リアリスト」ですから。



<わたしは祈ることを自分に禁じた代わりに、この世のことはこの世で解決しよう、この世で解決できる問題は、ひとの力で解決しよう、と思いました。>



ツイフェミと言われる人々が、具体的にどうやって自分たちの課題を「解決」していくのか。
上野さんの活動が成果に結びつくには、「社会的な認知」が不可欠であったことを考えると、もう少し周り(そこには「男性」も含まれます)の共感を得るようなアクションが必要なんじゃないかな…と個人的には思ったりもして。



とはいえ、上野さんの周りを挑発するアクションや「上から目線」ポーズも大概ですけどw。
そこらへん、本書のラストの「ゼミ」パートで感じたりもします。
でもまあ、ここまでやってきた人だし、実績を踏まえつつ、リアリティを持って「これから」のスコープは設定されてますからね。
それはそれでいいのかも…です。



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