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過激な少数意見の声が実態以上に大きくなるが、使いようもある:読書録「「ネット世論」の社会学」

・「ネット世論」の社会学 データ分析が解き明かす「偏り」の正体
著者:谷原つかさ
出版:NHK出版新書(Kindle版)

ネットでは少数の意見が過剰に大きく広がってしまうために、実際の世論との乖離が大きくなってしまう
…と言うのは、少し前から言われるようになっていて、実感もしてたんですけど、最新の状況について確認をしたくて読んでみた本です。
直接のきっかけは、都知事選での石丸候補の健闘にありますが、本書は、言及はあるものの、対象としては、この都知事選の前までになるんですよね


<2024年東京都知事選挙では小池百合子氏が勝利しましたが、ネットで人気を集めた石丸伸二氏が票を伸ばしました。ネット世論と社会の世論の関係は今まさに変わりつつあるのです。繰り返しになりますが、その場合本書を、「ネット世論と選挙結果が一致しなかった時代の資料」として参照していただければ幸いです。>


まぁ、そこまで予防線をはらなくてもいいと思いますがw。
勝ったのは小池百合子さんで結構圧勝だったわけですし。
統計的な分析の仕方を具体的に解説してくれていて、理解が及ばないところも少なからずありましたがw、かなり興味深く読むことができました。
あえて言えば、x(Twitter)を対象とした分析だけで、どこまでネット世論の実情に迫れるかっていうのあるかもしれません。
YouTubeやTikTokの影響の方が大きくなってるような気もしますから。


第1章「偏り」はなぜ生まれるのか ネット世論の構造
1 世論とは何か
2 従来の世論とネット世論
3 ネット世論と選挙
4 インターネットは社会を分断するのか?

第2章 データが示す実態 ネット世論の分布
1 2021年衆議院議員選挙を解剖する
2 2022年参議院議員選挙で追加検証する
3 安倍首相の国葬における実証研究

第3章 なぜ少数派の意見が大きく見えるのか ネット世論の正体
1 大阪府知事選挙における実証研究
2 Xに投稿するのはどんな人か?
3 データ分析が明かすネット投稿のダイナミズム

第4章 ソーシャルメディアは社会を変え得るか  ネット世論の希望
1ソーシャルメディアと社会運動
2 旧ジャニーズ問題とメディアの沈黙
3 沈黙はなぜ破られたのか?

第5章 フェイクニュース時代の歩き方
1ネット世論と向き合う
2 揺らぐ情報の信頼性
3 ソーシャルメディアを乗りこなすために




本書が指摘するポイントは大きく言うと、以下のようなものだろうと思います。


①x(Twitter)では、極端な意見ほど強く大きく広がってしまう。
具体的には、1%以下の発言・投稿がネット上では主流の意見となってしまう

②極端な意見にはイデオロギー性は特に関係なく、保守であれ、リベラルであれ、極端な意見は多く広がる。
政治的意見については、反権力的な傾向が若干強いのでそういう意見が広がりやすいと言うのはある

③少数の極端な意見は、基本的にはリアルな世論を動かす事はあまりない。
ただ時折社会正義につながり、社会を大きく変えるケースがないわけではない。



③の例として挙げられるのは、検察の定年延長問題とジャニーズ問題になります。
ただまぁそこまで行くのは、個人的にはかなり例外的なことなんじゃないかなぁって言う感触があるんですけどね。
それ以上にTwitter上での過激な少数意見の正義感が空回りするケースの方が最近はよく見られるような気がします。
一方でTwitterの意見をテレビなどのマスメディアが取り上げるケースが増えてきていると言うのは、確かにあって、そのことで少数の極端な意見だったのが一般の世論として取り上げられ、結果的にそれがリアルな理論の形成につながると言う事はあるのかもしれません
この事は結局はマスメディアの影響力の大きさの表れではあるんですけど、ちょっと嫌な雰囲気ではありますね。


そう言う中でネット世論を見極めていくために作者が挙げているのが
・事実と意見を区別する
・事実に基づいて考える
・絶えず「出典」を問う

…結局コレくらいしかないんだよね〜。



まぁ、全般的には本書の主張は納得のいくものではありますが、作者自身も指摘しているように、オンザウェイの状況でもあり、今後どうなるかというのはもう少し見定める必要はあると思います。
世代が変わりつつあるっていうのもありますし、新聞を中心としたマスメディアが急速に力を失いつつあるように見えると言うのも考慮すべき材料です。


今後の自民党の総裁選、そしてその後にあると思われる総選挙
ここら辺でどういう風になるかですかね?
個人的にはまだまだネット世論がリアル世論を大きく動かすところまではいかないと思うんですけど、さてさて、どうでしょうか?


#読書感想文
#ネット世論の社会学
#谷原つかさ

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