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サスペンスより、ホラーより、怖しい…:映画評「ファーザー」

原作の戯曲も有名ですし、本作でアンソニー・ホプキンスはアカデミー賞も受賞してますから、「ネタバレ厳禁」ではないとは思うんですが、気になさる方は読まないでください。
僕は事前に大まかな概略は知ってましたが、それでも興味深く観ることができました。


ぶっちゃけ「興味深く」って言うより、「怖ろしく」ですけどね〜。
本作を観る気になったのは、公開された「サン」を観ようかなと思ってなんですけど、「サン」を観るのも怖くなってます。


基本的には「認知症になった父親の視点から描いた物語」。
記憶や時間の感覚があやふやになり、人の区別もつかなくなってきて、妄想も紛れ込むようになった父親視点での物語がメインストーリーで、そこに彼を介護する娘(長女)視点でのエピソードが挟み込まれる構成となっています。


これ、サスペンス映画とかだったら、「父親のフラットを盗もうとする娘夫婦の陰謀」みたいな感じで、最後は「死んだと思わされてた娘(次女)」が父親を助けに来る…みたいな展開もありそうなんですけどね。(それが失敗したら…「リア王」やねw)
あるいはホラーだったら、フラットに取り憑く怨霊の影響から狂気に囚われた父親が、ついに娘夫婦を惨殺する…とか?(「シャイニング」っぽい?)


でも本作はあくまでもリアリティラインの物語。
認知症に罹った父親はどんどん自分の輪郭を曖昧にしていき、妄想が現実を侵食していって、自分自身すらシカとは分からなくなっていく…。
最初はサスペンス風に物語は進むんですが、あまりにも不合理な展開が主人公の認知の不確かさを明らかにして行き、それにつれて遣る瀬なさが膨らんでいくという展開になります。
100分弱なんですけどね〜。
気分的に疲れます。
演出はシャープなんだけどなぁ。


「結局何だったんだ」
なんですが、それが分かったからって、何かが解決するわけでもない。
それがこの物語の「怖ろしさ」だと思います。


(特に詳しく調べたわけではないですが、本作の「事実ライン」を検証した記事としては以下当たり、参考になりました。

最初の記事では「介護現場での暴力」の影響、次の記事では「娘視点での整理」なんかが指摘されています)


結局「どうすればよかった」はない。
敢えて言えば「専門家のアドバイスに従う」…かなぁ。
それでも「介護士の暴力」問題はあるんですけど…。
ただそれでも父親の認知の歪みが「止めようがない」以上、娘の人生や感情をどう守っていくか…と言うのはあります。
そして「今を大切にする」。
詰まるところはソレかもなぁ、と。
娘にとっても父親にとっても。
そして「大切にできる」ような関係性を保つために努力をする…と言うことも重要なんだと思います。
(この父親がどう言う父親だったかは明確には描かれていませんが、次女を偏愛していた気配があるあたりや、言動の鋭さなんかに、あまり円満な人格者ではなかったのではないか…と言う気配を感じます。
因果応報…とは思いませんが)


う〜ん、「サン」はどうしようかなぁ。
これを観ると、予告編とかポスターとかの「感動作」っぽいのは、絶対「引っ掛け」だよなぁ。
でもこの演出の切れ味の良さには惹かれるんだよなぁ。
…配信まで検討させていただきます…かな?


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