ローライフレックスのこと。
かつて写真雑誌の中で一枚のモノクロ写真に出会った。
異国の海岸の遠景である。海沿いの高い場所から見下ろすようにして撮影された砂浜の季節は恐らく冬、殺風景で色彩を失っている。海岸線には引き潮により広大な干潟が生まれていて、その上を無数の小さな足跡が漫然とした点描画を描き出している。足跡をたどった先に10人ほどの小さな人影を認めることができる。皆一様に黒っぽい外套を羽織っていて寒そうに身をすくめているように見える。こんな季節に一体何をするためにあんな海の先まで歩いているのだろうと気にかかる。静謐な中に何か不穏さが漂っているように感じさせられる写真だった。
それが私にとって「ROLLEIFLEX」というカメラを意識した最初の作品だった。その写真を見て、いつか自分もローライフレックスで写真を撮ってみたいと思った。
それから数年後、中古のローライフレックスを手に入れた。ろくな知識も下調べもないまま、ふらりと入った中古カメラ屋で即決した。F値と画角すら、今回のこの記事を書く時まで気にしていなかった。購入時はそういうことにまったく頓着なかったのだ。
3.5Fプラナー75mmで、製造年は確か私の生まれ年と同じ。同い年の相棒だ。
カメラを撮影するたびに思うのだけど、カメラは己の姿は写せないのよね。
最初の一本が現像から上がってきた時の感動は今も忘れない。緻密な描写力と粒子のなめらかさ。密度のある透明感。そしてやっぱりそこはかとない物寂しさを感じさせてくれる。そして撮影時、箱形カメラのてっぺんからのぞき込むファインダーに写る世界もいとをかしなのである。
以下、これまでの作例を。
KodakのPORTRAとの取り合わせが個人的には最高なのだけど、最近はきっかけをくれたあの写真のようにモノクロを残していきたいと考えるようになった。
ピント合わせが年々苦しくなる一方だけど、これからも一緒に歳を重ねていきたい。あらためてよろしくお願いします。
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