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歳の重さ。

わたしが日頃お世話になっている写真屋さんには、いつも若いお客さんが大勢訪れている。撮影済み35mmフィルムを10本近くまとめて持ち込んで現像を頼んでいる猛者を見かけたりすることもある。
一方、オンタイムでフィルムカメラに慣れ親しんできたはずの自分と同世代のお客さんに会う機会はあまりない。

若者の間でフィルムカメラが流行っているのであれば、それはもう一重に有り難く心強い限り。フィルム産業の未来に幸あれと願う気持ちは、せせらぎに笹舟を浮かべてそっと送り出す心持ちに良く似ている。どうかもうこれ以上、種類が減りませんように。値段が上がりませんように。


若い人達が今フィルムカメラを手にするきっかけは何なのか気になっていたところ、最近フィルムカメラを始めたというとある大学生の記事にこう書かれているのを見かけた。


“母のLOMO-LCAが20年間使われずに自宅で眠っていたから”


かつて親が使っていたカメラを子どもが引っ張り出して使う。昔からよくあるごく真っ当な理由ではあるけれど、これまでに感じたことのない特別な衝撃を覚えた。

というのも、カメラが「LOMO-LCA」だったからだ。ニコン FM2でも、オリンパスのOM10でも、MAMIYA645でも、コンタックスの何かでもない。高級トイカメラ「LOMO-LCA」だ。結構最近のカメラだ。

これはあくまで推測の話になるのだけれど、今から「20年前」あたりに「LOMO-LCAを購入」し、「今大学生の子供を持つ」親御さんと言ったら自分と同世代、もしくはもう少し下の世代だろう。
親として生きる機会がないまま今日まで来たので自覚がなかったけれど、すでにわたしは次の世代へ何かを譲り渡す側に立っているのか。愕然とした。だからと言って何かを始めようとか、何かをやめようとかそんなことではないけれど、なんというか、自分の年齢の正確な重さを実感させられた瞬間だった。

それにしてもLOMO-LCAは今からまさに20年ほど前、自分がカメラを始めた頃に憧れた高級トイカメラだ。大学生の下で20年の眠りから覚めた姫(カメラ)の幸せを願ってもう一つ、笹舟を浮かべよう。


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