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ウィーンにいるはずだった今日

こんなはずじゃなかった。
9月12日。都内ワンルームの自宅で、奮発して購入したシルクパジャマを着てこの文章をタイピングしています。
本当だったら、ウィーンのホテルで今ごろ着るために購入したのだけども。

心がポキっとね

緊急事態宣言の延長が決定した8月のこと。

魂ここにあらずで仕事をなんとか終えたあと、六本木から自宅までの帰り道。少しだけ、泣きました。”心がポキっとね”、フジテレビで放送されていたドラマのタイトルがなぜか頭をよぎりました。

しんどい。ハートがしんどい。

iPhoneに”Bank of America Chicago Marathon - Participant update”のメールが届いたのはその前日のこと。シカゴマラソンを走るランナーにワクチンの接種証明か3日以内の陰性証明を義務付けるメール。「あなたがトレーニングを積んでいるように、我々運営もあなたに安心安全で素晴らしい体験をシカゴマラソンでしてもらうための努力を積んでいる。」このレースを今年は決して中止にはさせない、強い意志を感じる文章でした。

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2021年の春、欧米ではワクチン接種が進み、目まぐるしい勢いで日常を取り戻していく様を友人のSNS越しに眺めていました。日本でバーチャルレースが流行していた5月、アメリカでは小規模ながらリアルレースが次々と開催されており、半ば白目をむいてツイッターに投稿していたのを覚えています。

こうしている間に、日本でもワクチン接種がスタート。幸いにも職域接種の対象になったわたしは8月に接種を2回とも終えることができました。その頃にはワクチンパスポートのニュースも巷で流れており、また9月、10月開催のレースはほぼ開催の方向で動いているメールがどんどん届き、あとは緊急事態宣言の解除、かつワクチンパスポート保持者の入国制限の免除を待つばかりでした。

ことはなかなかうまく運びません。
オリンピックが終わってからコロナウイルスの感染者数の上昇を受けたことで緊急事態宣言は延長を迎え、ワクチンパスポート保持者の入国の際の隔離免除は絶望的に。

エントリー済みのレースは9月現在の段階で全て開催予定。わたしが日本人で帰国の際の隔離要請がある以上渡航が難しいため出場できない。つまりエントリー料の返金はゼロ。ウィーン、ローマ、マドリード、ヘルシンキ、シカゴ、総額10万円ほどが水泡に帰すことになりました。

悔しい。悲しい。泣きたい。いろんな感情が渦巻きました。
何が正しいのかわからない。他国の友人がレースに出場しているのが羨ましい。”他国は他国、日本は日本”とネットでよく目にしますが、隣の芝生は青いどころではなかった。
数字だけを並べると、日本の死亡者数は他国よりも全く悪くない。そしてコロナウイルスの類型の死亡者数よりも、年間の自殺者数のが遥かに多い。癌の死亡者数のが多い。わたしたちは何と戦っているのだろうか。

魔裟斗になりたい

日本から出国が出来なくなり、1年と半年が経ちました。海外へ頻繁に渡航するため希薄だった人間関係は瞬く間に色濃くなり、母国ならではの体験を沢山させて頂きました。

もちろん楽しいことも沢山あります。だけれども以前なら気にならなかったことが、心をじわじわと侵食していく痕が目立つようになりました。特に2021年の上半期は呼吸が苦しくなる言葉を投げられることも増えました。

「結婚とかはどうするん?ちゃんと相手いるの?」
「女は30過ぎたらキツイよ。」
「子供が産めるのもリミットがあるからね。」

そのほかにも、いろんなお言葉を頂戴しています。”わたしが魔裟斗みたい明らかに強かったら、男だったら、こんなこと言われないのだろうか”とぼんやり頭の片隅で考えるようになりました。

悔しい、そう唇を噛む一方で焦っている自分がいることも確かです。それがまた悔しさに拍車をかける。
日々の仕事に忙殺され、今年もレースに出場することが厳しくなった、もう”普通の生活”を選択するのもありなのかもしれない。その思考回路になる自分、それがまた情けなくてシーツに涙の染みを大きく残しては眠る日々でした。

"We are happy to offer you to transfer your starting place to the VCM 2022"

8月下旬、ウィーンマラソンの運営に一通のメールを送りました。

2020年からエントリーをしていたこと、2021年のレースに出場する気でいたこと、ワクチンパスポートも取得済みであること、日本政府の方針で2週間の隔離がなくならないこと、自分は働いており2週間の休みを取得することは不可能であること。
そして願わくば2022年に振り替えをしたいこと、もしそれが叶わないならば2021年のレースへのエントリーをキャンセルして欲しいこと。

こんなメール、送りたくなかった。
そんな心持ちで、送信ボタンを押しました。

次の日の夜、ウィーンマラソンの運営の参加者を管理しているミス・ヘルマンからメールが返ってきました。

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”メールを送ってくれてどうもありがとう。とても残念だけど、あなたが2022年に振替えをしたいと聞いて嬉しく思います。2022年へのエントリーは20ユーロで振替が可能ですよ。あなたがエントリーしたことを確認できるものを送ってください。それを確認してから振替の処理を進めて、2022年のウィーンマラソンにエントリーするための登録コードを秋口に送ります。ちなみに2022年のウィーンマラソンは2022年の4月24日です”

六本木から自宅までの帰り道。少しだけ、泣きました。今度はうれしくて、幸せが目の縁から溢れていました。

大したことないかもしれない。たかがそんなことなのかもしれない。
それでも、わたしはうれしかった。やさしく対応してもらえて、涙がでるほどにうれしかったです。

わたしにできるのは、諦めないこと


頑張るじゃなくて負けない。好きなことを頑張るのなんて当たり前なんだから。何よりもだいじなのは、負けないこと。辛いことやひどいことが起こったり言われたりしても、負けないこと。それがいちばん大切。それと自分にも負けないこと。いちばんの敵は、これくらいでいいんじゃないって声をかける自分だよ。

年始に投稿したnoteにあった言葉。まさしく今、”諦めたくなる”フェーズにいます。そして自分のやりたいことをやり続けるために、いろんな圧力や言葉と戦って傷ついては、歩みを進める人がたくさんいるのだと思います。

この文章を打ちこみながら、ウィーンマラソンのライブ配信を自室で眺めています。

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ほんとなら、この集団の中にいたかった。美しいウィーンの街並みを走って、友だちと再会して、シュニッツェル食べてビール飲みたかった。
多分、今日もまた涙をぽろぽろ零して眠るのだと思います。

そして、また少しだけ強くなって起きるのだと思います。
2022年の4月、この地で走ることを待ってくれているマラソンに応えるためにも、ここで諦めるわけにはいかないのです。


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