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書記の読書記録まとめ

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今までに読んだ本についてのレビュー。 ブクログ:https://booklog.jp/users/9512a62a15b04973
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2023年7月の記事一覧

書記の読書記録#993『素数と2次体の整数論 (数学のかんどころ 15)』

青木 昇『素数と2次体の整数論 (数学のかんどころ 15)』のレビュー レビュー3章までは初等整数論の復習,4章から代数的整数論のうち2次体を扱う。それまでの知識だけでも最後まで読み進めることは可能で,類体論などへのステップアップにちょうどいい。 もくじ第1章 算術の基本定理 1.1 準備 1.2 約数と倍数 1.3 Zのイデアル 1.4 素因数分解の一意性 1.5 p進付値 1.6 ユークリッドの互除法 1.7 ピタゴラス数 第2章 整数の合同 2.1 合同式 2.2

書記の読書記録#992『消滅世界』

村田 沙耶香『消滅世界』のレビュー レビュー本作はスペキュラティヴ・デザインやバイオアートといった分野を文学で実践したものと言える。ゆえに文学のみならず幅広い方向からの切り口を持っている。 万人が「おかあさん」と「子どもちゃん」の関係に収束した世界について,「おとうさん」更に言えば父なる神をいかにして排除してきたのか,その過程の方が気にはなる。 完全に関係ない話ではあるが,本作の優しい世界観にテロリストを放つとしたらどのような人物だろう,存在そのものがマスクされている弱

書記の読書記録#991『数理物理学の風景』

新井 朝雄『数理物理学の風景』のレビュー レビュー対称性と量子力学に関する数学に詳しい教科書で,初学者でも対称性については読みやすい。 もくじ第1部 対称性  第1章 対称性の美しさ  第2章 対称性の数学  第3章 対称性の破れ  第4章 物理における対称性  第5章 シュレーディンガー方程式とディラック方程式における                           対称性 第2部 数学と物理学  第6章 数理物理学  第7章 マクスウェル方程式からゲージ場の方程式

書記の読書記録#990『復刊 射影幾何学』

秋月 康夫,滝沢 精二『復刊 射影幾何学』のレビュー レビュー射影幾何の公理から厳密に説明した,射影幾何学の高度な教科書。 もくじ第1章 射影幾何の公理 第2章 射影座標,射影変換 第3章 射影幾何の解析的取扱 第4章 Grassmann多様体 付録I.計量空間 付録II.Grassmann多様体の位相的性質 索引 本記事のもくじはこちら:

書記の読書記録#989『講座 数学の考え方〈15〉代数的トポロジー』

枡田 幹也『講座 数学の考え方〈15〉代数的トポロジー』のレビュー レビュー代数トポロジーのうちホモロジー論に関する教科書で,特異ホモロジーやコホモロジーなどを一通り網羅している。 もくじ1 オイラー数 2 回転数 3 単体的ホモロジー群 4 特異ホモロジー群 5 写像度 6 胞体複体 7 コホモロジー環 8 多様体と双対性 本記事のもくじはこちら:

書記の読書記録#988『コンビニ人間』

村田 沙耶香『コンビニ人間』のレビュー レビュー第155回芥川龍之介賞受賞作。 コンビニという小さな空間に過剰な人間模様を映すことで,普通とは何かという問いの自然な演出に成功した。主人公に共感させるような仕組みだけでも,著者の優れた技巧を感じることができる。ただ,主人公の病的要素にいくつか理由づけようとしている点が気になった,サイコパスを示唆する描写はどこまでが意図的なのか。 本記事のもくじはこちら:

書記の読書記録#987『統計的学習の基礎 ―データマイニング・推論・予測―』

Trevor Hastie,Robert Tibshirani,Jerome Friedman『統計的学習の基礎 ―データマイニング・推論・予測―』のレビュー レビュー機械学習の教科書としてはPRMLに並び有名なもので,メジャーな手法は大体まとまっている。分量が多く使い方に悩むところだが,ひとまずは章ごとにつまみ読みしていく予定。 もくじ第1章 序章 第2章 教師あり学習の概要 2.1 導入 2.2 変数の種類と用語 2.3 予測のための二つの簡単なアプローチ:最小2乗

書記の読書記録#986『首塚の上のアドバルーン』

後藤 明生『首塚の上のアドバルーン』のレビュー レビュー人口音声により始まる遍歴が『太平記』『平家物語』などの引用をもとに肥大していくのだが,結局は現実世界で何も起きない。話のまとまらないオタク語りといった感じで,話す姿の可笑しさを堪能する作品だと読み取った。 もくじピラミッドトーク 黄色い箱 変化する風景 『瀧口入道』異聞 『平家』の首 分身 首塚の上のアドバルーン 本記事のもくじはこちら:

書記の読書記録#985『ゼータへの招待 シリーズ ゼータの現在』

黒川 信重,小山 信也『ゼータへの招待 シリーズ ゼータの現在』のレビュー レビューゼータ関数にまつわる話題をまとめた教科書で,概観を知るにはちょうど良いと思う。 もくじ第1章 ゼータ関数とは 第2章 オイラーのゼータ関数 第3章 リーマンのゼータ関数 第4章 合同ゼータ関数 第5章 ハッセ・ゼータ関数 第6章 ガロア表現のゼータ関数 第7章 保型形式のゼータ関数 第8章 セルバーグ・ゼータ関数 第9章 p進ゼータ関数 第10章 ゼータ関数の統一 本記

書記の読書記録#984『人口の経済学 平等の構想と統治をめぐる思想史』

野原 慎司『人口の経済学 平等の構想と統治をめぐる思想史』のレビュー レビュー人口経済学を学習するにあたって必要な歴史についてまとめられている。人口というものが経済学にどう関わってきたのか,思想の流れを追うことも重要。 もくじ序文 第一章 重商主義の時代 人口論の射程の広さとデータ主義の起源 1.はじめに 2.ペティ:人口を測る 3.重商主義と人口 4.おわりに 5.補説:ベーコン主義 第二章 スミスの時代 自由と平等の条件と、経済学の生成 1.はじめに 2.モンテスキュ

書記の読書記録#983『ガイダンス 離散数学: 基礎から発展的な考え方へ (ライブラリ新数学基礎テキスト TK 6)』

中本 敦浩,小関 健太『ガイダンス 離散数学: 基礎から発展的な考え方へ (ライブラリ新数学基礎テキスト TK 6)』のレビュー レビュー集合論・数理論理学・グラフ理論・組み合わせ論などの初歩的な内容をかいつまんで紹介した入門書。本格的な参考書のスタート地点を確認する用に。 もくじ論理/集合/写像/二項関係/グラフ理論/一対一対応の考え方/関数のオーダーと問題解決/タイルの敷き詰め問題/鳩の巣原理とラムゼーの定理/組合せゲーム 本記事のもくじはこちら:

書記の読書記録#982『君たちはどう生きるか (岩波文庫)』

吉野 源三郎『君たちはどう生きるか (岩波文庫)』のレビュー レビュー話自体はいい子ちゃんが真っ直ぐ成長するといったもので特段変わったところはない。天動説と地動説のくだりをはじめ,引用元をおじさんの都合の良く解釈しただけにも思える。 感想を見るに概ね好評であることから,本書で示される「道徳」は大衆の支持を得ているのだろう。本書を様々な学問から批判的に読解することは,大衆を理解することにつながるかもしれない。 本記事のもくじはこちら:

書記の読書記録#981『量子コンピュータが本当にわかる! ― 第一線開発者がやさしく明かすしくみと可能性』

武田 俊太郎『量子コンピュータが本当にわかる! ― 第一線開発者がやさしく明かすしくみと可能性』のレビュー レビュー光量子コンピュータ開発の研究に携わっている著者による入門書で,非専門家の疑問の多くに答えてくれている。 もくじ第1章 量子コンピュータとは? 量子コンピュータは未来のひみつ道具? 今,量子コンピュータが熱い 誤解ばかりの量子コンピュータ 誤解1:量子コンピュータはあらゆる計算が速くなる? 誤解2:量子コンピュータは並列計算するから速くなる? 誤解

書記の読書記録#980『挾み撃ち』

後藤 明生『挾み撃ち』のレビュー レビュー 無くしたものを探すというのは最も無駄な時間ともされている。思考が渦となり人を閉じ込め,外套から戦争へと連想ゲームが展開される。 過度な冗長さは小説であることを疑わせ,文そのものを読むことを強制させる。単につまらない文章であればすぐ目を背けるところを,本作の饒舌はやけに読者を惹きつける。無駄を省いてしまえばほとんど残るものはないだろうが,その無駄の醍醐味を味わうことのできる作品であった。 本記事のもくじはこちら: