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書記の読書記録まとめ

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今までに読んだ本についてのレビュー。 ブクログ:https://booklog.jp/users/9512a62a15b04973
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2021年6月の記事一覧

書記の読書記録#215「シュルレアリスム」

酒井健「シュルレアリスム」のレビューと読書記録 レビュー現代において「シュール」という語が,不条理や意味不明なものに対してよく用いられる。しかしそれは元の意味のほんの一部に触れているに過ぎない。 シュルレアリスムは第一次世界大戦を終えた1920年代,フランスで生まれた文化運動である。簡単に流れを言えば,偏った理性主義への批判から始まり,特に戦争体験より超現実を取得して,フロイトの精神分析を取り込み,マルクスの革命思想をも飲み込んで政治にまで拡張した。 本書では,主に「シ

書記の読書記録#214「検査値を読むトレーニング: ルーチン検査でここまでわかる」

本田孝行「検査値を読むトレーニング: ルーチン検査でここまでわかる」のレビューと読書記録 レビュー主要な検査値から病状を推測する形の演習であるが,これは難しい。臨床検査技師であれば,いずれも必須の問題なのであろう。 読書記録ルーチン検査:血算,生化学検査,凝固線溶検査,尿糞便検査,動脈血ガス分析 基本の13項目: ・栄養状態(アルブミン,総コレステロール,コリンエステラーゼ) ・全身状態(アルブミン,血小板) ・細菌感染症の有無(左方移動) ・細菌感染症の重症度(左方移

書記の読書記録#213「マニ教」

青木健「マニ教」のレビューと読書記録 レビューゾロアスター教やイランイスラーム教を専門とする著者による,マニ教についての概要。教祖であるマーニーの生涯について,その後世界各地での拡大と衰退について書かれている。 読書記録# 1p21〜62 ・マーニー教のキーワード:人工の宗教,書物中心の宗教,神話的表象の宗教・第4の世界宗教?・ドイツ トゥルファン探検隊を始めとした発見 # 2p63〜128 ・エルカサイ教団での教育・「大いなる福音」「生命の宝庫」執筆・預言者の封印・サ

書記の読書記録#212「統計のための行列代数(上下巻)」

D.A.ハーヴィル「統計のための行列代数」のレビューと読書記録 レビュー原著「Matrix Algebra From a Statistician's Perspective」 「行列代数」という語も納得の,線形であることよりも行列であることに重きを置いた,ひたすら文字列の羅列による定理と証明の繰り返し。数理統計ガチ勢の辞書。 本書に近いテーマでより手軽なのは金谷 健一「線形代数セミナー: 射影,特異値分解,一般逆行列」だろう。 読書記録# 1上p1〜155 ・基本演

書記の読書記録#211「夏の花・心願の国」

原民喜「夏の花・心願の国」のレビュー レビューものを書くことへの迷いと覚悟が,静かな文体から感じられる。とはいえ結局は狂気から逃れることは不可能で,しかし何事もなかったかのように語りを続けようとしたのが本作。 いわゆる原爆文学に分類されるのだが,妻の闘病と死の延長線上として書かれている点に注目すべきだろう。急激に拡張する現実に対する視点の変化は,シュルレアリスムの作家に通じるところがある。 人間の認識がぶっ壊れる瞬間の記録としても読める。もともとの詩人としての高い技量無しに

書記の読書記録#210「天然物化学」

菅原二三男(編著)「天然物化学」のレビューと読書記録 レビュー天然物化学の重要性については,最近のものでいえばイベルメクチンを挙げれば十分に理解できるだろう。本書は天然物化学の教科書で,合成経路やタンパク質相互作用などについて幅広く扱っている。 読書記録p1〜193 ・単離,構造決定,合成,生合成遺伝子の決定,ケミカルバイオロジー・代謝産物・スクリーニング・生合成経路:ポリケチド,テルペノイド,トリテルペンとステロイド,カロテノイド,シキミ酸,フラボノイド・香料・植物ホル

書記の読書記録#209「内科医が知っておくべき疾患102」

宮地 良樹(総監修)「内科医が知っておくべき疾患102」のレビューと読書記録 レビュー一般内科医(ジェネラリスト)が遭遇し,診断または初期治療をする可能性のある境界領域の疾患について,各科のスペシャリストが実践的な診断方法・治療のコツなどを解説します。(内容紹介より) 主に専門医へ相談すべき,見逃してはならない重要疾患について書かれている。見開きごとに1疾患扱っており手軽で読みやすい構成である。 読書記録もくじ: ・眼科(ドライアイ,充血,眼痛,視力障害,視野障害,複視

書記の読書記録#208「一般音楽論」

清水 響「一般音楽論」のレビューと読書記録 レビュー初学者向けに,音楽に関連する学問の全体像を捉えようという本で,意欲作なのは間違いないが中途半端で特に使い道が浮かばなかった。広く浅くなのはそうなのだが,いくらなんでも浅すぎる。 読書記録# 1p14〜90 ・長音階・短音階:和声的,旋律的・和音・和声進行・調の選択・転調・調性外の音高 # 2p91〜348 ・拍,拍子・テンポ,BPM・複合拍子,混合拍子,可変拍子,ポリリズム,ヘミオラ・テクスチュア・モノフォニーと教会旋

書記の読書記録#207「中医臨床のための舌診と脈診」

神戸中医学研究会「中医臨床のための舌診と脈診」のレビューと読書記録 レビュー舌診や脈診は,特徴的な症候が多く証の判別に役に立つ。本書は,主要な症候について写真付きで解説しており,基準として参考になる。 読書記録# 1p3〜58 ・舌質:神,色(淡白,紅,絳,紫,青),形(老嫩,胖大,腫脹,歯痕,痩薄,裂紋,光滑,点刺,瘀点,舌下脈絡),態(強硬,痿軟,顫動,歪斜,吐弄,短縮,舌縦,舌麻痺)・舌苔:色(白,黄,灰,黒),質(薄厚,潤燥,腐膩,全偏,剥落) # 2p59〜1

書記の読書記録#206「ヘテロ環の化学」

John Arthur Joule,Keith Mills「ヘテロ環の化学」のレビューと読書記録 レビュー原著「Heterocyclic Chemistry at a Glance Second Edition」,ヘテロ環の反応性や合成法などについて概説する教科書。 これは「Heterocyclic Chemistry」の抄録版。本家はこちらで,ヘテロ環合成には欠かせない本であるという。特に天然物関連では必須だろう。 読書記録# 1p1〜54 ・芳香族ヘテロ環化合物の構

書記の読書記録#205「仕事ではじめる機械学習」

有賀 康顕,中山心太,西林孝「仕事ではじめる機械学習」のレビューと読書記録 レビューで,仕事でどう使えばいいのか,というのが機械学習の難しいところで,本書はその手の疑問を幾らか解消してくれる。機械学習の本であるが,そもそも機械学習が要らないパターンについても触れられている(実務上重要だろう)。 機械学習のユーザーになったときに,あらかじめ読んでおくと対応が楽になるかもしれない。読み物としては良い。 読書記録# 1p1〜208 ・機械学習プロジェクトの流れ・アルゴリズム:

書記の読書記録#204「ざっくりわかるトポロジー」

名倉真紀,今野 紀雄「ざっくりわかるトポロジー」のレビューと読書記録 レビュートポロジー(位相幾何学,微分幾何学)の全体像を掴むのに良い本。啓蒙書の装いだが,専門分野の紹介といった形で専門書一歩手前レベル。 読書記録p3〜187 ・位相幾何学,微分幾何学・同相,同値・ポワンカレ予想・オイラーグラフ,ハミルトングラフ・ユークリッド空間・位相不変量・オイラー標数,正多面体ではいずれも2(オイラーの多面体定理)・写像:連続写像,同相写像・イソトピー変形,ホモトピー変形・デーンツ

書記の読書記録#203「一般線形モデルによる生物科学のための現代統計学」

Alan Grafen,Rosie Hails「一般線形モデルによる生物科学のための現代統計学」のレビューと読書記録 レビュー一般線形モデル(GLM)とは,t検定や分散分析,線形回帰など,多くのパラメトリック検定を含む概念である。本書は,難しい数式は無しに,グラフと統計量の表を例にしながら,GLMの概念を組み立てていく方針を取る。 手順の概要: t検定(復習)→ANOVAの原理,平方和分解→回帰分析,1つの説明変数→2つ以上の説明変数→交互作用の導入→モデルの検査,GL

書記の読書記録#202「新・古典の学び方」

池田 政一「新・古典の学び方」のレビューと読書記録 レビューここでいう古典とは,漢方医学や中医学のものを指す。現代における活用を知るのに古典は欠かせない。主に「素問」「霊枢」からの引用で,ほかに「難経」「傷寒論」「金匱要略」も取り上げている。原典や注釈だけで読むのは容易ではなく,本書のような解説本は助かる。 読書記録# 1p3〜186 ・易経・道教・天人相関思想・陰陽,五行・虚実・気血栄衛と津液・経絡 # 2p187〜326 ・蔵象:肝と胆,心と小腸,脾と胃,肺と大腸,