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狂おしくてありふれた、

安積山見初めし君を軟禁す我がなよ竹も雲に先立つ(ASAKAYAMA MISOMESHI KIMI WO NANKIN SU WAGA NAYOTAKE MO KUMO NI SAKIDATSU)

一目惚れなんて簡単に言葉で表せないくらい、
一方的で抗えない恋だった。

この世のものとは思えないほどの美貌が頭を離れず、
日夜胸を焦がし続けた。

魔が差した。空言を言って彼女を奪い、ひたすら逃げた。

誘拐、監禁、高揚。

安積山に彼女を囲い、天にも昇る気持ちだった。

安積山の庵で時間と日々を彼女と重ねた。

けれども狂おしいほどの偏愛と執着は思いもよらない形で
終わりを迎える。

ある日食べ物を手に戻ったら、彼女が果てていた。

自分が庵を留守にしてしまったその間に
絶え入ってしまった愛しい人。

彼女なしでは生きられない。

類稀な美しさに焦がれて天子に背き道を外れ、
その人を失い、まだ見ぬ我が子も失い、命を落とした。

かぐや姫を失った時の帝や翁たちも、
こんな気持ちだったのだろうか。

狂おしくてありふれた、昔の恋のお話。

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