#212 読書日記38 スタートアップの経済学
『スタートアップの経済学』加藤 雅俊 有斐閣
この20年、「アントレプレナーシップ(起業家精神)」や「スタートアップ」の名の下に、若者(高校生や大学生)の意欲ある学びを支援してきた。
実際にビジネス化したものもある。
取り組み方として今ひとつ腹落ちしない部分がありながらも、「とりあえず行政が支援してくれるなら、自分たちの懐は痛まないのだし・・・」と、ある意味、保険をかけながらやっているようなものだ。
もし保険がなかったらどうなっていただろうと思うことはたくさんある。
結局、最後は数百万円の負債となり企業が尻ぬぐいした例もあった。
大学へ務めるようになってからも、アントレプレナーや、まちづくり、コミュニティづくり、商品開発など、さまざまな景色を眺め続けている。
「価値あるアイディアの創出!」
「君も起業家にならないか!」
「ベンチャーの時代到来!」
「イノベーションが未来を変える!」
「自分の裁量で自由に働ける!」
「知識を生かして自分の思うように事業展開できる!」
「収入を増やす仕組みさえ作れば利益は出せる!」
若者達が目を輝かせ、成功者の話を聞き、ワークショップをやったりプロからアドバイスを受けながら、いろいろなことにチャレンジしている。
こうした取組の発端は、安倍政権時代の「成長戦略」の柱のひとつにもなっていた「産業の新陳代謝とベンチャーの加速」にある。
本書を読んでみると、起業の成功率が低いのは何故か、という逆読みできる部分もある。
起業が悪いわけではない。
環境整備や資金調達を支援する体制が不十分な面がある。
クラウドファンディングも、コロナをきっかけに、支援する企業も市井の人々も財布の紐を引き締めている。
国策のひとつであるにも関わらず、旧政権から理念だけが受け継がれ、旗は振るけど、デフレをはじめコロナ、円安等々の不幸が続き、「ない袖は振れない」と・・・・
現政権はそれどころではないピンチに立たされている。
起業はギャンブルではなくビジネスであり、データサイエンスだ。
ベンチャーや新規事業の中から「雇用」と「イノベーション」が創出されるのはいいことではある。
でも時々、どこか強引さや傲慢さが見え隠れする。
「学生のみなさん、お金は援助してあげるから、いいアイディア出してちょうだいね!」
アイディアの搾取か!と思うような事例もある。
ビジネス展開する場合、アイディを出した学生が生み出した知的財産権(無形財としての商標権、特許権、意匠権、著作権など)について、どう対応すべきかも、つまびらかにすべきである。
若者達のアイディアや意見を聞くと言いながらも、大人の事情でダメ出しされたり、方向転換を迫られたりすることもある。
マーケットリサーチしたりビジネス化する資金補助がなければ、学生達はただのビジネスごっこになってしまう。
もちろん、どこの企業も自治体も変なわけではない。
百戦錬磨のプロフェッショナルの力を上手く活用できていないとか、行政独自の因習に縛られ、会議ばかりに時間を取られ、検討しすぎて問題を複雑にするといったことも起こっている。
効果が出るまでに時間がかかることはわかっているはずのに、予算の関係で単年度打ち切りとか、地方議会から理解が得られないとか・・・・
もうビックリすることばかりだ。
「学生たちの知恵とアイディア、勇気と行動力で!」と言われても、先立つものがなければねぇ‥‥
ブームや経済、景気動向、金融政策に影響を受ける面はあるにせよ、コケる例が多いと、若者たちのやる気も削がれてしまうのだ。
さて、衆院解散、総選挙や政権政党と党首はどうなるのかな。