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理不尽に泣かない石切梶原―十月大歌舞伎

十月大歌舞伎第三部「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)」を観てきました。

新型コロナ完全対応の歌舞伎座

歌舞伎座だったんですが、観客の平均年齢層が高いこともあり、出来うる限りの新型コロナ対応をしてた。
・ 入場時のチケットのもぎりは客が自分で半券をちぎって、自分で回収箱に入れる(係員は一切触らない)。
・ 手指消毒液が場内の各所にあるだけじゃなく、アルコール・アレルギーの観客向けに他の種類の消毒液も用意。
・ 座席を市松模様に売るだけでなく、桟敷席がすべて空席。かつ換気のために桟敷席のドアを全て上演中も含めて常時開放。(トップ写真)
・ 売店は一か所だけ開店で、売ってるのは水とか飴とかくらい(お茶もあったかも)。自販機も販売停止。
・ メインの売店「お土産処木挽町」は場内からの通路を遮断して歩道側からの出入りのみ。いくつもあって賑やかだった場内のその他売店は、地下の物販フロアに移動してブースで営業。場内の物販エリアで混雑するのを回避。

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お土産処 木挽町 ー 歩道より

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地下の物販フロア

・ 演目は一部一演目の四部制。観客を全部入れ替えるだけでなく、役者と裏方が複数の演目に参加しないようにし、出演者側の濃厚接触の範囲を限定。これは、より多くの人数の裏方さんに仕事をまわす仕組みにもなってると思われます。
・当然マスク着用必須で、大向こうさん含め掛け声禁止。

チケットのもぎりに関しては、自粛期間明けの上演再開直後は観客全員手指消毒してからチケットを自分でもぎって…という手順だったらしいのでこれでも少しは緩くなっている模様。

で、お芝居。

登場人物が封建的な世の中で理不尽に苦しめられる姿を鑑賞するのが歌舞伎の演目の大半です。親子・兄弟が敵味方にわかれてしまう戦国の理不尽さ、忠義のために、自身はおろか自分の子供の命まで捧げなければならない理不尽さ、そんな極端な理不尽の中で個人がすりつぶされていく姿を描くお話が多い。なので、お話の結末はたいがい心中・切腹・神頼み。ところが、この石切梶原は珍しくハッピーエンド。

【あらすじ】
兵をあげた源氏方の侍の許嫁・梢と父の六郎太夫は軍資金とするべく名刀を平家側の侍に売ろうとする。相手は鶴岡八幡宮で参拝にきた平家方の梶原平三、大庭三郎、俣野五郎。刀の切れ味を証明するために二つ胴の試し斬りが必要だが、あいにく試し斬りできる罪人は一人しかいない。
婿のための資金集めに必死の六郎太夫は、ありもしない二つ胴の折り紙をとってこいと娘を家に帰し、自分が二つ胴の二人目になると申し出る。戻ってきた梢の目の前で、刀の目利きを頼まれた梶原は試し斬りを行うが、囚人の胴と六郎太夫の綱を斬ったのみで失敗。
大庭三郎・俣野五郎の二人は嘲り立ち去る。梶原は自分の本心は源氏方であることを父娘に明かし、刀が源氏ゆかりのものであることを見抜いた上でわざと失敗したと話す。梶原が刀を買うことを約束し、本当の切れ味をみせるために手水鉢を二つに斬ってみせる。 

… という、試し斬りでハラハラさせて、手水鉢を一刀両断にするところでスカッとさせるエンタテインメント性の高いお話。

 試し斬りの犠牲になろうとする六郎太夫の中村歌六は、お金集めに必死できゅうきゅうとする姿と大義のための犠牲となる威厳を同時に醸し出し、市川男女蔵の俣野五郎景久は敵役なのにチャーミング、大庭三郎景親の坂東彌十郎は相変わらずしゅっとしてます。
 そして梶原平三景時をヒーロー片岡仁左衛門がキリっとシャキっとスパっと演じてた。歌舞伎座の徹底した対策ぶりがもはや演出効果と化して、コロナ禍の理不尽を生き残ってやる的な意志が伝わるようでした。
 新型コロナと関係なくもとよりの予定で舞台のヒノキが張り替えられており、一瞬マスクを外したときにぶわっ!ときたヒノキの香りの清々しさとともに、思い出に残るお芝居でした。