映画芸術っていうな!『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』
”Rotten Tomatoes”は映画情報サイト。様々な映画の映画評の内容を分析し、映画批評家の評価平均を点数化しています。要は、映画を観る前にその映画の映画史上の評価がだいたいわかるという便利なサービス。そこで話題になってしまったのが『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』。60%を境にフレッシュとロットン(腐ってる)が分かれますが、この映画は59%でロットンとされてしまいました。
任天堂が満を持して投入するマリオの映画、しかもミニオン・シリーズなどの制作会社イルミネーションとの共同製作、かつメジャースタジオ、ユニバーサル配給の映画です。59%の数字だけ見たら惨敗。
ところが、公開されてみると同サイトに寄せられる観客評価は96%。世界興収10億ドルを超えて数字を伸ばしています。
振り返ってみると、この現象は任天堂ゲームの映画化では通常営業です。
『ポケモン・ザ・ファースト・ムービー 』
(邦題:劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲/1998)
トマトメーター 16% / 観客評価 64%
『ポケモン・ザ・ムービー2000』
(邦題:劇場版ポケットモンスター 幻のポケモン ルギア爆誕)
トマトメーター 19% / 観客評価 56%
『名探偵ピカチュウ』 (2019)
トマトメーター 68%/ 観客評価 79%
…てな感じですが、2000以外は今回のマリオ含めてそれぞれ北米興収1位。(”2000”は2位。)
なので期待と不安が入り混じる感じで観に行きました。つまらなかった時に後悔しないように、IMAXは避けて通常字幕版。
確かに最初10分くらいまで、大丈夫かな?つまんないぞ?と思いました。NYブルックリンの配管工の兄弟が異世界に飛ばされて…の部分がお話も映像もなんとも微妙。マリオの声優はクリス・プラット。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『ジュラシック・ワールド』シリーズの主役のほか、『LEGO® ムービー』で主人公エメットの声優をやったときは平凡な建設作業員が戸惑いながら大活躍するのを魅力的に演じました。ところが、マリオの方は平凡。キャラではなく演技が。マリオは跳んだり跳ねたりするだけで、キャラクター性というほどのものもなくて演技のしようがないのはわかるんですが、クリス・プラットの無駄遣い的な印象。
ただ、マリオがキノコ王国にたどり着いたあたりから、こねたとちょっとしたアクションの連続で間が持つようになって、映画の中でマリオがゲームのトレーニングコースに挑戦し始めるあたりで楽しくなってくる。
結局、ゲームを再現したアクションが面白くて、クッパ大王役のジャックブラックは相変わらずキレてるし、スピード感と爽快感に溢れた気持ちいい映像が続いて、テレッテッテレッ テッテ!と楽しいまま終わり。
一応、冒険してお姫様を助けるという純朴なゲームの設定から、お姫様の助けを借りて弟ルイージを助けるという設定に変更されていて、いじわるに言えばポリコレ配慮になってます。
ただ、ピーチ姫の方がほとんど主役級でずっと活躍するので映像にも華やかさが加算されてて、洗練されたアップデートになってた。とってつけたような映画版新キャラを投入していないのも功を奏した感じもあります。
映画のテーマは、失敗を繰り返してもクリアを目指してあきらめない!とか、兄弟の絆! 自分のことをダメな子扱いする父ちゃんだっていつかはわかってくれる!とか。それぞれのテーマがそれなりに有機的に関連してるんですがそれでも映画芸術のテーマとしてはほぼアリバイレベル。
ただ、”スーパー・マリオ・ブラザーズ”というゲームの映画化としては質が完全に違うメッセージになってます。人生で最初にプレイしたビデオゲームがマリオという人が世界中にいくらでもいて、場面クリアするまで頑張る最初のゲーム体験=マリオの思い出だったりする。きょうだいがいれば一緒にプレイするし、ゲームをやりすぎれば父ちゃんにはダメな子扱いされる。そういうビデオゲーム周辺の色んな人生がストーリーに直接練りこんであった。深く感動するかどうかはおいといて、ゲームのファンなら素朴に共感できるお話だった。
映画芸術の失敗作『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、ゲームの映画化作品としては大成功でした。