「ムツゴロウの素顔」(畑正憲著、文春文庫刊)

 ムツゴロウと言えば、北海道の動物王国で有名だった人物である(すでに過去形)。

 「ムツゴロウとゆかいな仲間たち」というテレビ番組が定期的に放送されていた頃が懐かしい。今では知らない若者も多いのではないか、とこのようなことを書いていること自体、かなり昔の人間になってしまったことを自ら口にしているような感覚を覚える。

 ムツゴロウこと畑正憲氏は作家である。エッセイストと言った方がいいかもしれない。本書「ムツゴロウの素顔」は昭和51年から52年にかけて「週刊読売」に掲載されたエッセイをまとめたものである。私がこの本を読んだのは高校生の頃で、当時の私でさえ「古い」と感じる内容だった(すいません…)。いま読むとまさに隔世の感。古い、そして懐かしい(勝手なことばかり言って本当にすいません…)。

 内容は、畑氏が日々の日常で感じたこと思ったことをごく自然な文体で綴ったものである。現代用語で言うなら、「ブログ」である。この文章の内容が書かれたころはネットで自分のブログを公開するなどという発想はこれっぽっちも無かったのは言うまでもない。私が初めてこの文章を読んだ高校生の頃でさえ、ブログという概念そのものさえ無かった。なんという時代の変化だろうか。現代においては、文章を一般に公開する、誰もが自由に閲覧できる状態にする、そうしたことがそれだけ簡単に、そして瞬時に可能となったのである。

 電車の中で週刊誌や雑誌を読む人が、最近はかなり少ない。というか、全くいないと言ってもいいだろう。「昔はみな電車内では雑誌を読んでいたのに、いまは誰もがスマホをいじったり携帯ゲームをしたりしている」と某作家氏が嘆いていたのを何かの紙媒体で読んだ。作家諸氏の収入が大幅減となった理由である。

 2018年に本書を再読した感想がこれだ。内容よりも時代の変化の話になってしまった…。

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