2023年によく聞いたアルバム

 新譜をほぼ聞いていない。というか、一聴してすばらしいと思ったものでも繰り返し聞くには至っていません。そういうときもある。

UWIK / Finding

ドイツのバンドらしい。情報がない。淡々としたミニマルなインディーロック。インディーロックにもいろいろあるが、もう最近はポストパンク方面のイメージで固定されてる感じがあり、これもあえていえばそっち方面です。あとちょっとStereolabからBroadcastのラインのポストロックの風味がある。1曲目「Go Now」が際立っていいです。低い声でつぶやくダウナーな女性ボーカル、デカい音でミックスされたベース。ドラムは8ビートで二小節単位でフレーズが構成されてるんですけど、前半部分で四拍目のスネアを抜いてるのが魅力。小さく遠くで鳴ってるシンセパッド系の音が空間の広さ、風通しのよさを感じさせてくれていい。ベースが白玉のフレーズから八分になるとギターも入ってくるんですが、ギターの音がちっちゃいのでミックス上の主役は完全にベースだなあとなります。この辺の楽器同士の関係性がほんのりポストパンク、というかJoy Divisionっぽい気がする。中盤の展開がよくて、ぐっと音が減ってベースとボーカルだけになってからドラムが生からリズムマシン系の音に変わる。自然で美しい場面の転換。ドラムが生に戻ってからの後半が総仕上げ。上の方で目立たないようにやっていたギターがしっかり入っていきます。ここの「ついに」感がすばらしいので永遠に聞いていたい。
一曲目がすばらしいので「このレベルの曲を連発されたらどうする?」と思っていたが、そうでもなかった。特にアルバムの後半はややぼやけた感じになってくるが、それも味。完璧なアルバムではないし、見過ごされた傑作というほどでもないと思うが、全体的に好きだしよく聞いていた。

Taunus / Harriet

これもドイツのやつです。「Harriet」のひとつ前のアルバム「Malinche」がドイツのレーベルSchinderwies Productionsからリリースしてる関係で知ったはず。さっき紹介したUWIKもそこのリリースです。他にMikrofischとかもオススメ。Taunasに話を戻すと「Malinche」はアコースティックギター主体のフォークなんですが、コードをじゃかじゃかやる感じではなくスリーフィンガーでぴろぴろする感じでもない。むしろポストロック、マスロック系でSonnaあたりをアコースティックにしたような印象があります。これが次のアルバム「Harriet」になると曲の感じはそのままメンバーが増えて音色のパレットが広がる。あとミニマルミュージックだと思う瞬間が増えます。2曲目のTraminがライヒっぽい。Taunusのメンバーの一人がJan Thobenというドラムとかパーカッションを叩いてる人なんですが、この人F.S. Blumm関係でたまに名前を見るんですよね。ドイツのマスロックバンドのKinnとかもその二人が関わってますし。それでまあ予想通りというか「Harriet」もF.S. Blummがギターを弾いています。どのギターがF.S. Blummなのかは正直よくわかっていないが……。F.S.Blumm関係のアルバムはいい音しか鳴ってなくて驚嘆することがあるんですけど、このアルバムも音が本当に好みです。5曲目のPassers’ Pieceのイントロが好きでクラリネットでコードを示してトライアングルでリズムを打ち、入ってくる左のバンジョー、右のアコースティックギター。いい音しか鳴っていない。こういうのをやりたいので去年トライアングルを買った。このアルバムをリリースしているのがドイツのレーベル「Ahornfelder」なんですが、フォークトロニカ系で面白いリリースが多いので好きな人は聞いてみてください。Sinebag、Daisuke Miyatani、Yuichiro Fujimotoがよかったです。

Earwig / Under My Skin I am Laughing

Insidesというドリームポップ関連バンド扱いされることもあるが、あまりドリームポップではないシンセポップデュオがいます。感じとしてはPramとかLaikaにちょっと近い。Too Pureからのリリースではないが。EarwigはそのInsidesの前身バンドで、メンバーも大体同じ。「Under My Skin I am Laughing」は唯一のアルバムです。声の低い女性ボーカルがぼそぼそ歌っている曲が好きで去年はそういうのばっかり聞いていた気もする。Earwigもそういうやつです。Insidesと比べるとギターの音色を多く使ってるのでロックっぽいですが、コードをかき鳴らしたりはしない。6曲目Never Be Lonly Againのスロウコア感は90年代ブリストルのポストロック勢(HoodとかMovietone)に近い気もする。全体的にLong Fin KillieあたりのUKポストロックに近い気もしてきた。2曲目のSafe My Handsに感じるライヒっぽさと、3曲目When You're Quietの耳障りなほど甲高いシンセ、というかノイズがお気に入り。5曲目We Could Be Sistersはキックにリバーブがかかっていてドラムが遠い。波のように押し引きしながら音が大きくなるような構成で、テンションの高さが持続しないのがいい。派手さはないアルバムなんですけど、その分あきが来なくてよく聞いていました。

Dimmer / I Believe You Are a Star

ニュージーランド、ダニーデンのバンドStraitjacket Fitsの中心メンバーの一人シェイン・カーターが、バンド解散後に始めたのがDimmerです。RadioheadがKID AでAutechreを参照したのはよく知られた話ですが、同じ年にMassive Attackを参照したオルタナティブロックのアルバムがあったらどうなってたんだろうね~みたいな疑問に答えてくれるのがこの「I Believe You Are a Star」だと思っています。このアルバムについては以前に単体で文章を書いたのでそっちに任せます。

Cate Le Bon / Reward

ウェールズのミュージシャンなんですね。いま知った。勝手にイタリアかフランスあたりの人だろうと思ってた(だってポンペイってアルバム出してるし名前はフランスっぽい気がするし)。2022年にMexican Summerから出た「Pompeii」が気に入っていたんですが、その時点では過去のリリースを追うまでは至らず。2023年になってからさかのぼって聞き始めたところ、特に気に入ったのがこの2019年リリースの「Reward」でした。それまでギターに生ドラム中心のひねりのきいたポストパンク(あえていえばPere Ubu)の感じだったのが、サックスとシンセ、マシンドラムもフィーチャーしてポストパンク時代のミニマルなアートロックっぽい方向、ボウイのLowのB面、Japan、The Blue Nileのフィーリングに変わったのが特徴。この方向性は「Pompeii」でも維持されてます。リードトラックの「Home To You」が好きです。イントロのシンセリフ、独特の間延びしたような物悲しい歌声(よくニコを引き合いに出されてる気がする。わかる)、終盤のひかえめで品のいいギター、あとやっぱ深くなったリバーブ。The Blue Nileの音響シンセポップの子孫に位置づけたい気もする。荒涼とした岩肌に一人ポツン…っていうジャケもいいと思う。実際に開けていて荒涼とした音がしばしばする。ラストトラックのMeet The Manがそういう感じ。

Erik Hall / Canto Ostinato(Simeon ten Holt)

ライヒの「18人の音楽家のための音楽家のための音楽」の一人多重録音で話題だったErik Hallの新作はシメオン・テン・ホルトのカント・オスティナート! シメオン・テン・ホルトの曲は正直これしか知らんけどだいすきだからうれしい。まずハモンドオルガン、エレクトリックピアノ、ピアノっていうレアな編成の時点ですでにうれしい。このアルバムに関してはとにかく「音楽、無理だな」というタイミングでなにも考えずに聞き続けたので気の利いたコメントはできないんだけど、かつてライヒのSix Marimbasが占めていたポジションにいまこれが来ている感じです。

こんな感じでした。ライヒをあまり聞かず、ライヒの影を追っていた気がする。そういうわけで去年出たアルバムはあまり聞いていません。オススメあったら教えてください。終わり。

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