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米国におけるバッテリー工場建設ラッシュの現状と背景

 米国でIRAが署名/施行されて2年が経った現在、バッテリー専業はもとより自動車各社が製造拠点を米国/カナダに設立、バッテリーラッシュともいえる状況にあります。現時点までに米国内で総額1120億ドルが投資(実行/計画)され、2030年までに最大で年間1200GWhの生産能力が実現される予測となっています。
 2030年の最大生産能力が現時点のEV1800万台に匹敵、もちろん蓄電池/産業施設などでの活用も想定される中でユースケースも拡大しそうです。

1;米国でのバッテリー製造能力拡大

 米国でインフレ抑制法(IRA)が署名されて2年経った今、EVバッテリーの米国生産拠点は稼働中/建設中/計画を合わせると34拠点/PJにまで拡大。2019年には2施設の稼働のみだったが、COVID-19期間に徐々に始まり、IRAによる後押しも得て津波のように拡大した
 22/08に署名されたIRAはバッテリー製造拠点の国内化及び設立計画の加速を促している
 (対EU) 気候Tech絡みの競争を生んで双方に良い緊張関係も創出
 (対中国) 従前の中国へのLiB供給/製造依存が、COVID-19期の半導体危機を連想させて、各社が北米製造/レアアースレスLiBに切り替える後押しに

2;IRAの概観

 IRAではインセンティブ/付与条件の設定を[アメとムチ]の如く設定し、国内生産回帰を実現。バッテリーに関して中国依存を低下/回避し、2030年までに米国の新車販売の50%をBEV/HVにするバイデン政権の目標達成に貢献している

2-1;EV補助金

 EVに関し、特定のバッテリー調達/生産ガイドラインを満たせば最大7,500ドルの税額控除を受けることが可能だが、下記条件を満たす必要
 -条件1;税額控除の半分(3,750ドル)を受け取るには、[2024年にバッテリー部品の価値;60%を北米で生産/組立]を要請、割合が29年まで5%ずつ上がっていく
 -条件2;さらに半分(3,750ドル)を受け取るには、[2024年に重要材料の価値;50%を米国/FTA締結国から調達]する必要があり、2027年の80%まで10%/年で増加

2-2;先端製造にかかる税控除

 バッテリーセルにかかる税額控除も付与しており、製造するバッテリーの容量に応じて設定。セルでは容量1KWhあたり35ドルの税額控除が行われ、モジュールでは1KWhあたり10ドルの税額控除に。

2-3;製造補償;保険

 正極/負極の電極活性材料製造に要した費用の10%を補償する施策も展開

3;各社の現状と投資計画;抜粋

3-1;米国系OEM

(Daimler/Paccar/accelera/EVE-Energy)
 4社は23/09に中型/大型商用輸送での電動化支援に向けたバッテリーセル生産工場をJVを通じて整備、24/01にMS州に拠点を選定したと発表。LFPバッテリー技術に重点を置く事業体[Amplify Cell Tech]を通じた設計/製造知見の提供を行い、EVEはプロバイダとして機能する
(Ford)
 21/09に韓国バッテリー大手;SK-Onと[BlueOval SK]というJVを設立、DoEから92億ドルの政策融資を確保して米国内で3拠点の整備をまずは目指す
 当初計画ではKY州=2/TN州=1の整備でTN州はフォード完成車組立工場に併設(第2世代EVトラックを生産する予定)。KY州の1拠点は25年に生産を開始する予定だが、それ以外の2拠点はEV戦略転換から工程一時停止中
 本体のみでMI州にリン酸鉄リチウム工場を建設中だが、CATLから技術供与を受けており連邦政府/共和党議員から調査を受けている…。
 23/11にEV需要の縮小に対応する形で当該工場への投資額を35億ドルから20億ドルに縮小、生産能力は43%低下することに
(GM)
 LG化学とのJV[Ultium-Cells]で、米国に3つのバッテリー製造拠点整備を目指して連邦政府から22/12に25億ドルの融資枠を確保。LG化学とは24/02に正極材の調達契約を締結、今後10年間で190億ドルを投資してLG化学のTN州工場から調達を行う
 SamsungSDIと23/04にJVを設立、IN州で30億ドルを投資してバッテリー製造拠点を整備する
 POSCO-Chemと22/03に提携してカナダに4億ドルを投じて正極活物質の製造拠点を整備
 21年にはLiB新興のSolidEnergySystemsと提携し、MA週に試作拠点を建設、24年中に高容量LiBの製造を目指す
(Tesla)
 2017年にNV州のGigaFactoryで生産開始以降、[セル=73億個以上][パック=150万個]を生産して年間39GWhの生産能力を持つ。23/01にNV向上に追加で数十億ドルを投じ、年間150万台のModel3に対応可能な製造拡張計画を発表。同時にPanasonic依存の4680セルの内製化も狙うが…はたして?
 2023年にTX州のGiga-Austinを拡張して[新型セルの試験/正極活材&運転ユニットの製造]を行うとしたが計画詳細は不明。関連して23/05にTX州でのリチウム精製所建設に着手し、自社でリチウムを精製する数少ない米国の自動車メーカーの1つとなった

3-2;2;北東アジア系OEM

(Toyota)
 2021年にNC州にセル/モジュールの両方を生産するバッテリー製造拠点整備計画を発表し、23/10に同工場に数十億ドルの追加投資を発表。稼働開始時にはHV/EVの両方をサポートする生産ラインが10列整備される計画
 LG Energy Solutionと提携し、同社MI州の工場ではToyota向けのEVバッテリーを独占製造する
 豊田通商を通じてTX州でのリチウム権益を獲得、同州のコーパスクリスティ工場に3.75億ドル投資して採掘/精錬/生産を25年に開始計画
(Honda)
 22/08にLG Energy SolutionsとのJV[L-H Battery Company]の設立を発表、北米市場でポーチ型のセルを供給。OH州の拠点ではセル/モジュールの両方を生産、バッテリー部材のリサイクルにも手を広げており、Ascend Elements/Cirba Solutions/PoscoHDなどと契約を締結している
 OH工場ではHonda/AcuraのEVで用いられるモジュールケースの生産に向けて拡張を進めている
(Hyundai)
 23/04にSK-Onと合弁会社を通じて個別に製造拠点を設立し、量産段階に至ったらHyundai-Mobysが双方から部材を仕入れてバッテリーパックを組み立て。
 └SK-On;GA州バートウ郡に50億ドルのバッテリー工場を建設
 └Hyundai/LG-Energy Solutionは合弁会社を通じてGA州サバンナ近くにバッテリーセル工場を建設
 Hyundai-Mobysは22年にAL州にモジュール工場を建設する計画も発表、フル稼働で年間20万個以上のEVバッテリーを供給可能となる

3-3;欧州系OEM

(BMW)
22/10に米国むけ17億ドルの投資および、SC州スパルタンバーグの工場をEV生産用に改装すると発表。7億ドルはSC州ウッドラフでのLiB組立施設の建設に割当。26年の生産開始を予定だがスパルタンバーグ工場は現在、SUV及びクロスオーバーを製造(X3~7/XMなど)している
 バッテリーメーカーのAESCと提携してSC州フローレンスのバッテリーセル工場に追加資金を投資。当該工場では、スパルタンバーグ工場のEV向けに第6世代の円形LiBセルを生産
(Mercedes)
 22年にAL州に既存製造拠点ににバッテリー工場を開設、22年夏に同工場は完全電動SUV;EQSの生産も開始。続いて[EQE]の組立を開始し、24年には[Maybach EQS]の組立も。
 セルの黒鉛をシリコンで代替する次世代バッテリーを開発/製造するSilaと提携。WA州の新設拠点で量産に向けて研究を加速させている。当該バッテリーは次世代Gクラスに搭載予定で、25-26年に航続距離の長いバージョンのリリースを目指す
(Stellantis)
 Samsung-SDIとJV[StarPlus Energy]を造成し、23/03にIN州にバッテリー製造(セル/モジュール)拠点の建設を開始。続いて23/07にIN州に2番目のバッテリー製造拠点を35億ドルかけて整備すると発表、開業は27年を目指す
 2021年にLG Energy SolutionとJV[NextStar Energy]を設立、年間生産能力40GWhの北米工場を建設する計画を発表。22/03にJVを通じてカナダ:オンタリオ州の組立拠点にセル/モジュール生産設備の整備を行うべく37億ドルの投資契約を締結
(Volvo)
 公表データによるとSC州にLiB組立拠点を持つが、バッテリー/部品の製造はしていない。北米でのバッテリー生産計画については不明点が多い

3-4;4;バッテリー製造各社

(Our Next Energy;米国)
 バッテリー新興。22/10にMI州においてLFPバッテリー専用のGigaFactoryを建設する計画を発表、州政府から2億ドルの補助金を受けている。当該工場ではリン酸鉄の生成/正極材料の生産/セル&バッテリーの製造を一貫実施。
 その後23/02にSeries-Bで3億ドルを調達して生産を開始している
(Kore Power;米国)
 24/03にAZ州バッキーにバッテリー製造工場を建設する承認を受けたと発表、エネルギー貯蔵システム/eモビリティ用バッテリーを生産。30D準拠のバッテリー製造でOEMをサポートする意向で、国内企業と緊密に協力して重要な材料サプライヤーを国内に確保するとしている
(Panasonic;日系)
 22/07に世界最大のEVバッテリー(EVメーカー向けLiB)工場をKS州に40億ドルをかけて建設する計画を発表。当該工場はNV州のPanasonic Energy of North America(PENA)の施設(Tesla向け供給)に次ぐ規模でEV専門では最大規模
 23/06にPENAでの生産を3年以内に10%拡大する計画も発表し、直後には2030年までにTesla向けの4680バッテリーセルの生産に向けて追加で2拠点を開設するとも発表
 ただし、CEOのKuzumi氏は[バッテリー事業は新設よりも既存施設の効率化に重点を置く]としている
(AESC;日系)
 2030年までに米国に3つの製造施設を建設する計画で直近の投資予定額は31.2億ドル。22/08にKE州/23/06にSC州の工場の建設に着工。24/03にはSC州の工場について事業規模を拡大。TN州の工場は24年初めから操業開始
(LG Energy Solution;韓国系)
 既にTesla/Lucid/Toyotaなどの主要EV製造事業者にEVバッテリーを供給、バッテリー工場に関してはGM/Honda/Hyundai/Stellantisと個別にJVを設立
 23年初めにToyotaとの提携契約の一環として、MI州の既存セル工場(2010年稼働)の生産能力を5倍にすると発表。拡張された工場では新しいロングセル設計のバッテリーが生産される予定で、[航続距離の延長][より良い蓄電量][シンプルな構造]が特徴
 オランダ工場で生産する[EV用の大型ポリマーバッテリーセル][ポーチ型セル][ポーチ型パック]と結びつける
 AZ州の新工場への投資を55億ドルに増額させ、大部分をEVバッテリー生産に充てると発表。当該施設には[EV用の円筒形バッテリー]と[エネルギー貯蔵システム用のLFPポーチ型バッテリー]の2つの製造施設がある
 続く23/08には北米建設ラッシュ計画を発表し、25年までに最大170億ドルを投じて8つの工場(うち2工場は稼働中)を建設し、300GWh以上の生産能力を確保する予定。親会社;LG化学は23/12に正極材料を生産するテネシー州の工場を着工、ピーク生産時の生産目途は6万tで、32億ドルを投資。すでにGMと長期調達契約(190億ドル)を締結済み
(SK Battery America;韓国系)
 韓国バッテリーメーカー;SO-Onの米国子会社であるSK Battery Americaは独自PJを始動。22年初頭にGA州ジャクソン群の製造工場に26億ドルを投資し、量産を開始
(NorthVolt;欧州系)
 23/09に北米にGigaFactoryを開設する計画を発表、当初はドイツでの建設も検討していたがIRAの優遇措置が後押し。PJ投資額は70億ドル強で、[自社=32億ドル][州政府/連邦政府=42億ドル]の拠出しあう方式で、直前にはBlacklock主導で12億ドルを調達。
 工場にはRevolt(バッテリーリサイクルプログラム)も設置され、15GWhの容量となる見込み。同社は[2030年までにセル生産に必要な原材料の半分をリサイクル]することを目指す
 北米工場での生産は既に潜在客の予約購入が為されているとのことだが社名は不明
(Gotion;中国系)
 22/10にMI州ににバッテリー工場を建設する意向を初めて発表、建設にあたっては23/04に州から1.75億ドル補助金を獲得。EV/太陽光発電の両方に使用できる正極材/負極材の製造を企図。地元住民の反発/工業水道の整備計画撤回を通じて、Gotionと行政は訴訟中で完全に頓挫している
 23/09月にはIL州に2つ目のバッテリー製造工場を建設する計画も発表、19億ドルの投資予定で州政府からは5.36億ドル相当の優遇措置を。州政府との取り決めでは[数千人の高給職を創出する限り、30年間で2.13億ドルの税制優遇]が為される

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