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小説のように変わってしまった世界で読みたい本

コロナウイルス感染拡大に伴い、私の住むところでも「非常事態宣言」となるものが発令された。

武漢で新型のウイルスが発見されたとき、それからしばらくしてコロナウイルス感染者が初めて日本で確認されたとき、私たちは今のこの世の中を想像し得ただろうか。

多くの人が感染し、その脅威が全世界に広がっていく中で、私たちの生活は少しずつ縮小されていった。小中高が3月いっぱい休校になり、週末の不要不急の外出を控えるよう要請され、ついには「緊急事態宣言」の発令。増えていく感染者数に、毎日のように不安をあおるワイドショー。状況はどんどん悪化しているのにもかかわらず、私は一人現実味を感じられずにいた。それは、私が想像していた未来とはあまりにもかけ離れていたからだ。

何の影響も受けなかったわけではない。大学の授業はずるずると延期され、楽しみで仕方のなかったLIVEも延期になってしまった。コロナウイルスの影響で生活環境も大きく変わることとなった。
個人的には、図書館が閉館になったのが今のところ一番つらい気がする。

どこか現実離れした世界で、各々が我慢と、つらい思いを抱えながらも粛々と生きている。きっと少し前までの自分なら、そんなの起こるわけないじゃん、まるで小説みたいだなあ、なんて笑い飛ばせたかもしれない。
けれど、いくら疑おうとも確かに、世界は変わってしまった。

こんな世の中になって真っ先に読みたくなったのは有川浩の「塩の街」だった。ほかにもっとウイルスがどうたらこうたら~みたいなこの状況にぴったりな(ぴったりという表現はなんだか不謹慎なかんじがしなくもないけど)コンテンツはたくさんあるだろうけど、これ以上状況が悪化するような世界をたとえフィクションでも知りたくないからそれらを読んだり見たりする気にはなれなかった。

塩の街は、有川浩のデビュー作である。デビュー作でこんなに壮大であり繊細な小説が書ける有川浩って天才。
塩の街の世界では、「塩害」によって塩に埋め尽くされ、社会が崩壊しかけた東京でくらす自衛隊の男と、そこに転がり込んできた女子高校生の物語である。
ある日突然、巨大な塩の塊が落ちてきて人が塩化し死に至る、という原因不明の「塩害」がはじまる。あっという間に、大勢の人が死んで、世界は形を変えてしまう。

どのようにして塩害を解決するのか、詳しくは書かないがドキドキすること間違いなしだし、2人の恋模様にも目が離せない。結婚観に対する登場人物たちの価値観の変化にも共感せずにはいられなかった。

暗く絶望的な世の中でも、いつかはそれらが終わるときがきて、苦しい状況に打ち勝つために懸命に働いている人がいて、人とのつながりだとかは失われない。そんなことを塩の街は改めて教えてくれる。
それに、塩の街の世界は、今の私たちの世界よりもずっと悲惨で、救われる思いがする。まだまだ最悪な状況って他にもあるから、もうちょっとだけ不安と戦ってみようよってなんだか思えてしまうのだ。

現実世界では、小説のように鮮やかで劇的な解決がなされるとは限らない。コロナウイルスの脅威から、不安から脱することができるまでには、とんでもなく長い時間がかかってしまうのかもしれない。けれど、まるで小説のような状況から現実を取り戻すために、各々ができることをしながら、そのいつかを心待ちにしていたい。


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