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iPhoneと各種アカウントとわたし 前

このあいだスマホを変えた。
iPhone8からiPhone7になった。
7年使っていたLINEアカウントと、10余年使用していたGoogleアカウントとおさらばする羽目になった。
そんな状況に陥った顛末を以下に記述する。


わたしが使っていたiPhone8(「ねいふ」という端末名をつけていたので以下「ねいふ」)は、ホームボタンがイカれていた。

iPhone7、8、SEシリーズのホームボタンは物理ボタンではなくて、一定の圧が加わるとセンサーが反応するただの丸い面なのだが、旧世代iPhoneから未だに脳を進化させられない人間にはこれが大変良かった。初めて使ったiPhoneが6だったから、ボタンがないとiPhoneじゃない!と立派に懐古厨をしていたわたしにもねいふは優しい触り心地だった。

iPhoneにおいてホームボタンは「ホーム画面に戻る」「スクリーンショットをする」「現在開いているタブを一括確認する」など、かなり重要な役割を果たす。
物理的に押し込むことの出来ないボタンは防水性も高めてくれるため非常に有能なのだが、もちろんボタンを利用するためのセンサーが端末内でアクティベートされていなければ利用できない。新世代iPhoneは顔認証が主流だが、ホームボタンが当たり前にあったiPhoneたちはその技術はなく指紋認証だ。その指紋を認識する役割もホームボタンにあてられていて、ホームボタンのセンサーはかなり大事なものだった。

ねいふのホームボタンはセンサーがイカれた。押し込むことも指紋を認識することもなくなってしまった。正真正銘ただの円。
パスコードを使用して開くことはできたため、あわててうちのねいふの不調をAppleに訴えた。
再起動やらなんやら、インターネットで得られる対処法は概ね先んじて行っていたため、画面の状態などこちらで得られる情報は全て伝えて、早々に遠隔操作される段階に入った。
再起動するたびに表示される「センサーがアクティベートされていません」という警告、びくともしないホームボタン。嫌な予感はしていたが、Appleの優秀なオペレータが出した結論は「ホームボタンがイカれてますね」というものだった。残酷だ。
修理すると割と高くつくから機種変の方がいいとか、iCloudの容量がアホほど少ないのでバックアップがどうこうとか、さまざまな案内がチャット画面に流れる。わたしの目はそのほとんどの上をただただ滑っていた。
4年ほど使っていた。それは、ものを捨てられない性格を極めているわたしがねいふを手離したくない気持ちになるのには十分すぎる期間だった。
必死の提案をすべて流されている哀れなオペレータは、早々に「機種変を勧めるのは無駄だ」と気づき、修理の方向で話を進めはじめる。
わたしがそれに逆らわず質問に答えていくと、目に飛び込んできたのは法外としか思えない金額。実際はまともな値段なのだが、労働に身をやつす人生をあまり送ってきていないわたしのような終わっている人間には到底支払えない金額だった。
これなら機種変を勧めたくなるのもわかる。万策尽きた。
途方に暮れながら「ちょっと……分割できるほどの社会的信用もなくて……学生以下の財力で……」というような情けない文言をチャット欄に放流していた。
それを見かねたオペレータが「まあまあ、いちおうありますよ。いまお使いのiPhoneを継続して使う方法。あまりおすすめできませんが」というようなことを言い出した。藁にもすがる思いというか、シンプルに視界に藁しか無かったので掴みかかる勢いでその方法を聞き出した。

仮想ホームボタン。

iPhoneにはAssistive Touchという機能があって、これは画面上にホームボタンのような役割を果たすものを表示できる機能。スクリーンショットやホーム画面に戻ることもしっかり出来るようになる。指紋認証は本来のホームボタン部分に依存する機能なので出来ない。

わたしは恥ずかしながらこの機能を一切知らなかったのだが、結構有名らしい。画面上にホームボタンが表示されるのは少し邪魔になるが、ホームボタンがないよりはある方が格段にいいのですぐさま表示した。

仮想ではあるが、ホームボタンが復活した。わたしはまたねいふを使い続けることができるようになった。いちいちパスコードを入力して、使えなくなったホームボタンを横目にねいふをスワイプし続けた。

数ヶ月後、わたしはねいふのパスコードをド忘れした。


続く

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