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牛と暮らした日々-そこにあった句#10 蝦夷梅雨

蝦夷梅雨の馬具は革へと戻りたき  鈴木牛後
(えぞつゆのばぐはかわへともどりたき)
 
ここ何年か、6月に入ってから雨が続いて、牧草収穫が始められない年が続いている。
北海道には梅雨がなかったはずなのに、最近の異常気象のひとつなのだろうか、6月7月に雨が多いのだ。

本来は、本州以南が梅雨入りし梅雨前線が本州上空に停滞すると、北海道には高気圧が張り出しずっと晴れが続くのである。その6月が一番牧草の収穫シーズンとなるのだが、ここ何年かおかしな事になっている。

特に2018年はひどかった。
本当に蝦夷梅雨そのものだった。6月から7月初めまで雨が続き、牧草収穫が始められなかった。

牧草は、6月の平均気温で4日間、30℃以上の気温だと3日間、晴れが続かないと乾草にならない。ラップフィルムで巻く場合は水分があってもいいのだが、それでも全然乾いてないととても重たいロールになってしまうので(転がすのに老体に鞭打つことになるので)、うちではなるべく軽くするためやはり晴れが続いて欲しいのだ。

牧草は適期に刈らないと穂に花が咲く。花が咲くと、茎が硬くなり栄養価が落ちる。
この年は収穫適期をとうに過ぎてからじゃないと始められなかったので、そういう栄養価の低いごわごわした硬い牧草を大量に収穫してしまった。しかも少し雨に当てて、ますます品質のよくない牧草になってしまったのだ。
これを本来ならすぐに捨てるところなのだが、シーズン始めで今後どれくらい収穫できるか分からなかったので、保険のためにラップを巻いて取っておいた。

その後は順調に収穫できたので、保険の分の牧草はいらなくなった。
そういう大量のゴミ牧草ロールが、今、ロール置き場に山積みになっている。収穫するのに大量のラップフィルムと肥料代と燃料代をかけ労働して、捨てるのにまた労働しなければならない。

2019年の初夏、そろそろ牧草収穫シーズンが始まるかな、という朝の搾乳中。夫の機嫌が悪く口数が少ないので「どうしたの?」と聞くと、
「なげる(捨てる)ラップ(牧草ロール)の事を考えると憂鬱で…」との事。
「あと何個くらいあるの?」
「100個以上ある」
「じゃあ、私も手伝うか?」
手伝った。それでも、まだ終わっていない。2022年の現在でもまだ捨て続けている。(どんだけやねん)

さてさて、今年の牧草収穫シーズンもまもなく始まる。
今年の天気は、どうなることやら。

蝦夷梅雨の牛の涎のやうな空  牛後
(えぞつゆのうしのよだれのようなそら)

大虎杖(おおいたどり)倒して蝦夷梅雨の出口  牛後
(おおいたどりたおしてえぞつゆのでぐち)



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