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【⚽日本サッカーを愛そう】噂アカウントの末路。

これは、
噂アカウントに関するとあるストーリー。
信じるか信じないかは、あなた次第。


■ある選手の場合

Aという男は熱く、真っすぐで、自分自身に正直であった。

静岡のプロサッカーチームに籍を置いて3年になる。クラブから引導を渡されない限り迎え入れてくれたこの地で全身全霊を尽くすと決め、地元とのかかわりに感謝しながらオンはもちろんオフも積極的に活動してきた。

それ故、
地元市民とは良好な関係を築き、街を歩けば気軽に声を掛けられ叱咤も激励もされる。
遠方から静岡にやって来たAにとってこの心地いい距離感は自分自身のこれまでを肯定してくれる全てであり、生き様そのものであった。

Aは満足するとともに改めてこのチームでの活躍と、勝つことによる地元の方々への恩返しを誓うのであった。



■ある大学生の場合

Zは毎日が退屈であった。

昔はクラスの中でもそれなりの存在感があったのだが、足が速いだけで認められるのは所詮小学生まで。声変りが始まったぐらいから明らかにチヤホヤされなくなり卑屈になっていった。

友達と絡んでいても自己肯定感が失われるだけでまったく楽しくない。自然と友人との交流も絶たれていき、気づけばSNSが”外”との唯一の窓口になっている。

そんな時だった。

悪気はない。単なる退屈しのぎ。Zは見よう見まねでこんな投稿をSNSでしてみた。

【噂】
プレータイムを増やしたいA(磐田)は、シーズン中にも関わらず水面下で移籍交渉を続けている。最有力は清水か。



■あるサポーターの場合

B子は朝からカッと頭に血が上るのが分かった。

裏切られた!!と思った。信じられないという気持ちももちろんあるが、それよりも何よりも失望感が大きい。
机の上に並べたアクスタが急に忌々しく見える。

朝起きてSNSを見たら大好きなAが移籍交渉をしているとの情報が入った。しかもシーズン中に!しかもライバルチームに!!
そりゃキャリアを考えれば移籍は選手の自由。でも今ってチームが一丸となって頑張る時じゃないの!?


彼はいつだってチームファーストであった。チームの調子が悪い時誰よりも声を出し、時には涙を流す熱い男だった。だからこそショックは大きい。

B子はいてもたってもいられず彼のインスタを開いてみた。案の定汚い言葉で誹謗中傷が飛び交っている。
中には「何考えてるんだバカフロント!!」と、選手よりチームを批判するものもあった。

同調したい気持ちをグッとこらえて、冷静を装い、噂ツイートの引リツでこうつぶやいた。

裏切られた。もう応援しない。選手も自由なんだから、サポも自由。
勝手にすればいい。




■あるサポーターの場合

熱心なサポーターであるCは今日もせっせとAの噂にリアクションする。

3年前。Aがこのチームにやって来た時からずっと推してきた。自分がAのことを一番知っていると、そう自負している。ファンサービスを受けた時のAの言葉が脳裏をよぎる。「サポーターのことはいつも想っている」。

きっとAは自分のツイートを見ているに違いない。


であれば、
この悲痛なメッセージを読んで考えを改めてくれるかもしれない。初めて噂を聞いた時、ショックで頭が真っ白になり「ふざけるな!」と吐き捨ててしまった。でも今は違う。
冷静に、祈るような口調に変わり「噂は本当ですか?自分は信じています」と、直接DMを送りAへのゆるぎない思いを熱く示した。


Aからの返信は無い。
が、Aはこのチームにいた方が良いに決まっている。彼は正義感から、あるいは親心の様な感情から、AにDMを送り続けた。




■ある大学生の場合②

Zは朝起きてびっくりした。

昨夜出来心でしたツイートが恐ろしいほど伸びている。いわゆるバズってる状態だ。100人ぐらいだったフォロワーも一晩にして1,000を超えている。何とも言えぬ興奮があった。

常々チームへの愛を語るAが、禁断とも言える移籍とは無縁そうな選手であることが功を奏した。加えてチーム状況が芳しくないことも周囲の関心(反感)を買うことに一役買ったのだろう。


「ちょろい」

と、Zはほくそ笑む。
酒を飲みながら適当に書いた文章で踊り狂う人たちが世の中にはこんなにもいる。中には「もっと情報を下さい」とすがって来る者もいる。
Zは麻薬にも似た高揚感を覚える。それは10年以上ご無沙汰だった承認欲求が満たされた瞬間であった。

もっともっと他の選手でも書いてみよう。

Zにとって取り上げる選手の名前は自分自身の欲求を満たすネタでしかない。選手に対してこれといった思いが無い分なんでも書けた。
次第に誰を刺せばいいとか、どんな内容で刺せばいいとかも心得てきた。

気付けばフォロワーは伸びに伸び、いちいちリアクションしてくれるちょろい人たちに対してもはや使命感すら感じるようになっていた。



■ある選手の場合②

チームスタッフからの連絡を受けてSNSを開いてみた。驚いた。たくさんのメッセージが届いている。

何事かと中を見てみると自分自身を非難する内容ばかり。寝耳に水とはまさにこのこと。火の無いところに煙は・・・とは言うが冗談じゃない。本当に火の無いところから煙が出ている。

恐ろしさにぞっとした。


原因となっているツイートも確認した。
どこからどう見ても信憑性のない怪しいアカウントや内容なのに信じられないほど多くのコメントやリツイートが付いている。

サポーターが本気で思っているのか、あるいは遊び半分なのかは知らないが、自分が数年間かけて培ってきた地元との信頼関係やチームへの愛情が、たったこれだけの文章で破壊されているという事実に喪失感はハンパない。

自分の意思とは裏腹に、Aの中で何かが音を立てて崩れていくのが止められなかった。


中にはこの噂アカウント自体を非難するツイートもたくさんある。多くの人はまともであるということも知っている。

しかし一方で、A自身やチームに容赦ない誹謗中傷も飛び交っている。


寝耳に水ではあるが、何とも言えぬ罪悪感。
この「汚点」はAにとって消えることは無い。これまで品行方正かつ真っ白であったAだからこそ、そのシミは色濃く残ることとなってしまったのである。




■自分は、大丈夫か

振り込み詐欺がなぜこの世から無くならないか。

それは悪いやつが後を絶たないんじゃなくて、これに引っ掛かる人が後を絶たないからである。

バカだなーとも思うし、何でこんなもんに引っ掛かるかねーと呆れたりもする。でもそういう人は一向に居なくならない。

実はこれ。噂アカも全く同じである。



このストーリーの様に、
どこからどう見てもどっかのアホが鼻くそほじくりながら考えたであろう根も葉も、そしてセンスもない噂アカに対して全力で反応している人が必ずいる。

それも少数ならまだしも、そこそこの人数がいるからびっくりする。
そして恐らくそういう人たちはテレビで振り込め詐欺被害のニュースを見ながら「バカだなー(自分は違う)」と思っている。

残念ながら本能を突かれて盛大にリアクションしている時点で同類なのにも関わらず、だ。



噂アカは”本能的に”興味をそそるものである。

それは大した宣伝もしないのにエロや金儲け話がこの世から無くならないのと同じロジック。
であれば、
受ける側が理性を持ってその処理を絶対に間違えちゃいけない。言い方を変えればここで踏みとどまれないのは理性の欠如と言われても致し方ない。

少なくともそう見ている人は多い

しかし、
本能に則っただけの行動をしてしまう人は意外と多い。気付かないところで誰かを傷つけている可能性があるにもかかわらず。





■ある選手の末路

試合に集中すべきだということは分かっている。一刻もこの疑惑を晴らしたい。
しかしながら球団からは一切リアクションをしてはいけないと指示されている。反応すれば事態はより悪化するから、と。


そんな悩みを抱えているときだった。
とあるチームからタイムリーにオファーが届く。例の噂アカとは違うチームだった。

球団は残留を留意してくれる。
しかし、

自分でも驚いたのだが、少し前であれば即答で断っていただろうこの話に興味を示す自分がいる。今、Aにとって一番必要なのはプレーに集中できる環境。

短い選手生命。つまらない噂アカで汚されるのは本望ではない。そんな感情が思いのほか大きいことに気付かされた。

そして、
何よりも自分を雇い、育ててくれたチームやスタッフへの誹謗中傷が止まないことがAを悩ませた。
自分はここに居ない方が良いのかもしれない。次第にそんな感情に支配される。頭では分かっていても、心が付いて行かない。


誹謗中傷だけではない。「信じている」「行かないで」といった悲痛な叫びもAを大いに悩ませた。
根も葉もない状況に対するサポーターからのリアクションは余りにも耐えがたい状況であった。真面目で、いつだってチームファーストであったAにとって。





■ところで。

このストーリーの被害者は間違いなくAである。

であれば、
加害者は誰だろう。B子か、Cか、それとも、Zか。



答えを明言するのは野暮だろう。
しかしながらただ一つ言えることは、本当のサポーターはこの物語に登場しないということだ。


愛が、いつだって正義とは限らない。
これは真実である。






本日も、最後までお読みいただきありがとうございました。



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