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【エッセイ】特上のうな重によせる想い

今年も土用の丑の日が近づいてきた。
毎年恒例のうなぎを食べる時期だ。

我が家の場合、例年は、私が仕事帰りにスーパーで、産地などのこだわりもなく、調理済みのうなぎを買ってくる。

そして、うなぎの量の少なさをごまかすために、うなぎを細く切り、錦糸卵とシソをご飯に混ぜて、混ぜご飯にするのは、ここだけの話。
また、タレをご飯にかけて食べるだけでも、良いもの。

(書いてて恥ずかしくなってきた。でも、以外に美味しくて彩りも良くて、これはこれで美味しいと思う)


そんな庶民の私だが、今年は、家族で国産うなぎの専門店に行き、特上のうな重を注文した。

お店は、庭園付きの日本家屋。
庭の美しい緑を眺めながら、うな重を待っていた。
奮発して、茶碗蒸しも頼んでしまった!

ワクワクしながら待っていたら……

「お待たせしました」と店員さんが特盛りのうな重を運んで来てくれた。

重箱の中のうなぎが光り輝いて見えたのは、特上のせいか、タレの光沢のせいか。

思わずうなぎに箸が伸びる。
口の中に入れ噛むと、ふっくらとした食感に甘じょっぱいタレの味が広がった。
フワフワしている。

ああ、幸せ。
嬉しいことに3切れのうなぎが入っている。普段は小食な私だが、今日は頑張って全部食べよう!というやる気までわいてきた。

気がつくと、大人5人がしばしの間、無言でうなぎを食べている。
普段、おしゃべりな父までもが無口になっていたので、内心驚いた。一心にうなぎを食べている。

その様子を見て、安堵した。

実は今回のうなぎ会食は、7月生まれの父の誕生日祝い。
父は、昨年9月にガンが発覚した。手術できないくらいに進行しており、余命7カ月と医師に言われていた。
その時から、治療が開始したものの、時に痛みを訴えたり、精神的にもダメージを受け、食欲もなくしていた時期もあった。
家族は次の誕生日を迎えるのは無理だと思っていた。

ところが、治療が合っていたのか、しだいに良い兆しが見えはじめてきた。腫瘍は小さくなり、本人も食欲が戻り始めた。

とはいえ、現時点では腫瘍を取り除くことはできないようで、不安は尽きない。
来年も、うなぎ会食で誕生日を祝えるといいなと思った。