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【読書感想】「常識のない喫茶店」僕のマリ


昨年後半から文章の勉強も兼ねていろんな方のエッセイを読ませていただいている中、ここ数年のエッセイ業界?を語るには欠かせない、僕のマリさんの「常識のない喫茶店」をついに読めた!

自費出版から執筆をしてきた僕のマリさんの商業出版第1作目となる本書。

初めて僕のマリさんを知ったときは、ペンネームの「僕の」という言葉の印象から、勝手に男性なのかと思いこんでしまって、あとから、女性だったのか!とまず驚いた記憶が。

さて、本の内容に戻りまして。

失礼な客や迷惑な客には遠慮なく出禁を言い渡す
ちょっと変わった喫茶店。そこで働く著者が出会った変わった客、一緒に働く同僚との交流や体験した面白エピソードなどが綴られていく。

本当に面白いお客さんがたくさんいて、各エピソードを読みながら、思わず声を上げて笑ってしまうこともしばしば。

ただ、読みはじめたときは、個性的な喫茶店にまつわる数々の面白エピソードを単純に楽しむ一冊なのかと思いきや、たしかにその要素もあるのだけど、どんどん読み進めていくうちに、この一冊はそれだけではないのだと、だんだんじわじわとしてくる。

新卒で入社した会社で様々な理不尽やプレッシャーにも向き合いながら、頑張ったけれど無理をしすぎて心身ともにボロボロになってしまったマリさん。

けれど、この個性的な喫茶店で働く中で、お客様相手であろうと、誰が相手であろうと、嫌なことは嫌と言っていいし、自分の考えや感覚を大切にしたり、それを主張していいのだということを改めて体感していく。そして、これまた個性的な店長や同僚たちとの交わりを通して、人との交流の温かさ、ありのままの自分で受け入れられていく体験もする。

そうして少しずつ癒されていったマリさんが、そこからまた一歩先へと進んでいく様子(執筆活動を進めていく様子)、マリさん自身の人との接し方や日々の過ごし方に対する感じ方や考え方が変化していく様子が、数々の面白エピソードにじんわり添えられながら描かれている。

社会の中で生きていくうえで、ときに感じる理不尽ややるせなさ(特に「女性である」という視点からの理不尽が結構強く描かれていたように思う)。それに傷つき、悲しみや怒りを覚えた体験。自分が傷ついたということ、傷つくことが悪いわけではないということ、そしてそれに対して怒ったり、反抗したり、自分の思いを持ち、ときにはそれを主張していいのだということ。それを受け入れてくれる人もいるのだということ。逆に、自分の感覚に合う人や場を自らも選びとっていくのも大切だということ。自分の快適を、自分の望む人生を、自らの手でつかんでいくということ。

喫茶店の面白エピソードの裏に、というかそのすぐ傍に、マリさんの人生が、じんわりと濃厚に、存在する。

読み終える頃には、一度は傷ついたマリさんの、人生の「再生」の過程がこの一冊を通して綴られているように感じた。

そして、そんなマリさんの過程を読んでいく中で、読者である私もまた、癒され、励まされた。

個性的な喫茶店とそこに通う客たちの面白エピソードを痛快に描くエッセイ本として単純に楽しめるのはもちろん、これまで社会で生きていく中でなんらかのかたちで傷ついたり、この先の自分の人生に不安や戸惑いがあるという人を優しく包みこみ、スッとその先へと光を指してくれるような一冊。

実はこのエッセイ本の続編である新刊「書きたい生活」も既に読み終えていて、そちらもすごく良かった!
また感想を書けたらと思います。

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