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素敵なあの人の特別な味

ふわふわの泡が好き。

彼女はそう言った。


もう10年以上前にアルバイトしていた喫茶店には、年上の素敵なお姉さんたちがいた。
そのうちの一人の方は、不思議な魅力にあふれた方だった。

アフリカへ行きたくて行った、というはなし。
なぎなたを習っている話し。
今は音楽をしていて、定期的に演奏会をしている話し。
インドへ行ったとき、埃っぽい道端でおばあちゃんが売っているチャイのおいしさを力説したり。
かといえば、KUT-TUNが大好きで、その良さをプレゼンしてくれたり。
でも、仕事ではテキパキとコーヒーを淹れて、メニューを提案したり。

私の知らない世界の話しがいっぱいで、ドキドキした。
自分よりも年上の人を、可愛いと心底思ったのは初めてだった。
その人と同じシフトの日は、楽しみでわくわくしていた。


一番覚えているのが、カプチーノの飲み方だ。

当時の私は、喫茶店でアルバイトしていた割にはコーヒーがそこまで好きではなかった。
コーヒーとカフェオレとカプチーノの違いもあいまいだった。
お店のオーナーに教えてもらって、やっとわかったし、他のお店でも注文してみて美味しいなと感じるようになってきた。


そんな頃にカプチーノの飲み方を教わった。

その方には、すごく好きなお店があって、そのお店のカプチーノの泡はすごいのだと言う。
なにがすごいって、もうほんとに泡がぶあつい。
その泡にそえられている細かいお砂糖を、さらさら~と丁寧に全体に均一に振りかける。
ここが一番集中するところ。一気にドバっといれてはいけないのだ。

そして、その泡をスプーンですくって食べるのだ。
ゆっくり、でも泡は消えていってしまうので迅速に。
もはや飲み物ではなく、ひとつのデザートだった。
そして、それを話すお顔が幸せそうで、あぁ本当に好きなんだなと感じた。


「すずちゃんにも食べさせてあげたい。」と言って、その方はお店が暇な時にカプチーノを作ってくれた。
だけれど、やっぱり違う。あのお店のような泡にはならないし、お砂糖も重要だ、と言われた。
違う、と言われたけれど泡をすくって食べるのは、すごく特別で、楽しくて、その時間が私にとっては宝もののような時間だった。

それ以来、私の中でカプチーノのふわふわの泡は憧れだ。

教えてもらったお店の名まえも忘れてしまったけれど。
今もそのお店があって、変わらずに通われているのかなぁ、そうだったらいいなと思う。

自分の好きなものを、誰かにもあげたいと思う気持ちはあたたかい。


夫も、結婚する前に「すごく美味いケーキがあるから、食べてほしい」と言ったことがある。
それは少し遠くまで電車に乗って、駅からもけっこう歩かないといけないようなお店だった。

昔ながらのケーキ屋さん、という佇まい。
お店に入ると、ぐんっとあたたかいオレンジ色に包まれた。
そこへあらわれるお母さん。
おそらく店主さんの奥さまなのだけど、夫とは顔見知りでいつもの感じで予約したケーキを受け取る。

そして、今食べる用にケーキを買う。
「ここのショートケーキを食べてみて。本当にクリームが美味しいから!」と夫が言うので、モンブランが好きな私だったけどショートケーキを買った。
そのクリームは、本当に美味しかった。
甘すぎず、軽すぎず、もうひとくちと食べ進めるうちに、あっという間にケーキはなくなってしまった。
「美味しかった!!」と興奮する私に、夫はそうでしょうという顔をした。

その人にとっての特別な味を教えてもらうのは、とても心が近くなったようで嬉しい。
そして、それを食べて一緒に話したり、共感したり、盛り上がるのは、もっと嬉しい。



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