シェア
ヤリスハデス
2022年6月8日 08:23
通勤は憂鬱だ。最寄り駅まで徒歩10分、近くもなく遠くもなく感じる距離だ。駅のホームには人が溢れかえっている。ここで事故・事件が起きたら一たまりのないんだろうな。電車に乗っても席に着くことなんてめったにできず、冤罪防止のために常に気を張っている。ある意味、この場が最も集中力を研ぎ澄ませる空間だ。会社に着くと、上司の目線に気を遣いながら、やりがいもない事務作業をこなす。午後からは外回りが
2022年6月7日 06:33
寝ぼけ眼で目覚めると、陽に照らされた君がいた。ワンルームを支配するセミダブル。僕の枕に君の香りがこびりつく。梅雨入り前、最後の晴れ間だった。君とこうして出会うたび、僕はなぜ思春期時代の母を思い出すのだろう。君が寝返りを打つと二、三年前に流行った香水の香りが広がった。ごぉぉっと外からヘリコプターの飛ぶ音が聞こえた。外に目をやると、向かいの家の屋根から黒猫がこちらを覗いていた。今
2022年6月5日 06:41
「カラフルでオーバーサイズの服ばかりを好んでいたのに、今じゃ白のインナーに灰色のアウターを着てる。なんか、かた苦しいわね。」君は僕に向かってそう言った。言われてみれば、窮屈だ。しかし、今の自分にはこの格好が相応しい。だが、どうだろうか。今の彼女は全身真っ黒で僕より地味だった。そう見えた気がした。「私はもっと長い時間、あなたの世界に寄り添えると思ってたわ。」天を仰ぎながら飄々とした声
2022年6月4日 06:06
踏まれる。私はただ踏まれる。足蹴にされ、温もりを感じる。それでいい。それがいい。生まれる。私はただ生まれる。私には運命を共にする者たちがいる。例外なく皆が、自ら動かない。草臥れる。私はただ草臥れる。醜く、色変わる。それでいい。それがいい。私はこの為に生まれたのか。そうだろう。私がこうしていることで、あなたが上に上がれるのだから。私はこうするしかない。そうだろう。