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たいせつにしたいこと


「わたし、山音さんの絵好きですって言われた。」
ーーー「花束みたいな恋をした」より



note投稿2作目、何を書こうかと思った時にふと思い浮かんだ言葉。
脚本、坂元裕二の「花束みたいな恋をした」に出てくる台詞。


私は、ドラマが好きで、
特に脚本家・坂元裕二が大好きだ。

小学生の頃から楽しみといえば日々21〜23時に放送される連ドラたち。

当時、サブスクなんてものは無かったので、
「面白かった!また見返したい!」と思うドラマがあったら
お母さんにTSUTAYAに連れて行ってもらって、
「5個までやで」などと
釘を刺されながら、
お宝見つけたみたいにワクワク抱えて家に帰るか、
お昼に再放送している過去のドラマを録画して見返すかだった。

そんな毎日の中で、初めて“脚本家”を意識したドラマがあった。

宝物のシナリオブック/カルテットと花束みたいな恋をした

それが、火曜日に放送されていたカルテットだった。

その頃私は高校卒業を間近に控えている時で、
人生で一番時間があったと言っても過言ではなかった。
だけども心身ともに疲れていて、SNSやテレビとは少し距離を置いていた。
ドラマの事前情報なんかも頭には入れていなかったので、
特に、今期どんなドラマがあるだろう。とは気にも留めていなかった。

妹が見ていたバラエティ番組の後、
たまたま初回放送があったのがこのドラマ。
私はお風呂上がりで、あるシーンを見ただけで、釘付けになった。

家森「唐揚げにはレモンするよって人と、(笑って)いやレモンなんかしないよ、するわけないでしょ、って人がいるじゃないか」
別府「かけた方が美味しいですよ」
家森「まずカリカリ度が減るよね」
別府「かけた方が健康にいいですし」
家森「唐揚げ食べようって時点で健康のことは一旦脇に置いてあるじゃないか」

カルテット 第1話より

まず、ドラマだとは思わなかった。
ちょっと尺の長いCMかと思った。

こんなドラマがあったんだ、と衝撃が走ったのを今でも思い出す。

衣装や髪型、設定が素敵なキャラクターたち。
ハラハラどきどきするストーリーとそれを彩る音楽。
細やかな作り込みの舞台、演出。映像の色味。
どれもこれもが好きで、うっとりしてしまうけど、
やはり頭に強く刻み込まれるのは台詞だった。

私はすぐに調べた。
坂元裕二、こんなすごい人がいたなんて!

小学1年生の頃に好きだったドラマ「西遊記」の脚本家だった。
あのドラマ、言葉遣いがとっても好きだったなあ。

すっかり坂元裕二に魅了されてしまった私は、
インスタグラムをフォローして、
彼の最新作を見逃さないようにと必死だった。

友達や家族、好きなアイドルや同世代の可愛い子たち。
私のフォロー欄に、脚本家のおじさまが加わった日だった。


花束みたいな恋をした、の公開日が発表された時なんかはもう、
ワクワク、ふつふつとした期待が溢れて、胸がじんわりとしていた。

映画を観た後は、興奮冷めぬままシナリオブックを速攻で購入した。
一番好き、というより心に沁みた台詞がこれだった。

「わたし、山音さんの絵好きですって言われた。わたし、山音さんの絵好きですって言われた。わたし、山音さんの絵好きですって言われた」

「わたし、山音さんの絵好きですって言われた」

花束みたいな恋をした/坂元裕二

主人公の男の子、菅田将暉演じる山音麦くんは、
絵を描くことを仕事にしたいと思っている大学生。
出会ったばかりの有村架純演じる八谷絹ちゃんに、
絵が好きだと言ってもらえたことが嬉しくて、
ひとり家で反芻しているというシーン。

私はこれに、ものすごく共感した。

わかるよ、
「絵上手だね」とか「すごーい」とかじゃなくって。
わかるよ、わかる。
「絵好きです」ってその一言が、それだけでその人のことを
好きになっちゃうくらい、とびきり素敵な言葉だよね。
何回も何回も、味わってしまう言葉なんだよね。


物語では、麦くんは生活を優先して絵を描くことをやめてしまう。
好きを仕事に、できればそりゃ一番なんだけど、
麦くんはそれができなかった。

私も、こうして書きながら、
本当はもっとお金を貰っていける仕事を
するべきなんじゃないかと、思ったりもしている。
(実際、お金がないので、誘われたカレーを食べに行けないと、
今日も泣いた。)

だけど好きを仕事にできないことを、
挑戦もせずに避けてきたこと、
後悔する日がきっとくる、と思った。


言ってくれた人にとっては何の気ない言葉かもしれないのだけど、
絵を描く人間にとってその言葉は麻薬みたいなものなのだ。

そんな麻薬みたいな言葉のおかげで、今日も筆をとる。


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