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修行の電話

飲食店をやっていると色々な電話がかかってくるものである。
その大半はお客様からのありがたいご予約のお電話や、メニューや営業時間などに関するお問い合わせの内容が多い。

それに紛れてごくたまに、新年度が始まったり、世の中で何かのキャンペーンが行われている時などは頻繁に営業の電話もかかってくる。

この営業電話が実に厄介で、仕込みや開店準備の途中などに、『あっ‼︎お客様からのご予約のお電話かな?』なんてウキウキしながら出てみるといきなり『〇〇でんきと申しまして〜』と突然早口で説明をしたのちに、『それでは明日係の者が順にお尋ねしますので云々』などと勝手に進行しているのである。
いきなりメーターを替えるだとか、プランを変更して乗り換えてくれだとかびっくりしちゃうね〜。
顔が見えない人といきなり契約することなんてないだろうよ〜。

しかしこれが、個人宅の高齢者の1人住まいなどだったらどうだろう?
さも替えることが当たり前や義務であるかのようなセールストークで捲し立てるのだから、誘導されて契約してしまう人もいるんじゃないだろうか。
明らかに詐欺である。
恐ろしい世の中だ。

これは個人的な感想になるのだが、この営業電話には嫌なジンクスがある。
これがかかってくる日は暇になることが多い。
やれやれ。
とうとう自店の暇さ加減を電話のせいにしだしたね。
と呆れないでもらいたい。
これは本当なのだ。

自己分析した結果、この類の電話がかかってくる時は忙しい時にわざわざ手を止めて出たのに、まるで無意味な内容だったという流れから、怒りの感情が湧き出てくることが少なくない。
それに伴いネガティブでマイナスな、どんよりとした地獄からの使者のような空気感が漂う。
これこそが暇を呼び寄せてしまう原因である。
こんなものは断ち切らねばならぬ。

ある時から営業電話は修行の電話であると思うことにした。
いきなり電話してきて米を送りつけようとしてくる者に対してもいかに怒らず、取り乱さず、軽やかにそして爽やかに『結構です‼︎』というか、その一点だけに賭けることにした。
軽やかに爽やかにだ。
心では怒っているが表情は口角を上げてにっこりだ。
笑いながら怒る人のようだ。
なかなか難しい。
しかし、難しいからこそやり甲斐があるのだ。
飲食業は修羅の道だ。

これは誰にも話さない、秘密の修行である。

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