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140字小説(ついのべ)/ 「龍にはみんな逆鱗があるの?」他13作

2022年10月後半の140字小説(ついのべ)13作です。


「龍にはみんな逆鱗があるの?」「おとなの龍にはある」「こどもにはないの?」「むしろ逆鱗がないとおとなにはなれないんだ。弱味がないなら、守るべきものがないなら、その者はまだ成龍とは言えない」龍はまっすぐな目で言いました。「人の娘よ、もはやお前が私の逆鱗そのものなのだよ」
(2022.10.31)


ばけものたちは満月の夜に集まってばけものの皮を脱ぐ。ばけものの中身は美しい女たちで、たまに男も混じっていることもある。皆で踊ったり歌ったり、ヒトであった頃の哀しい記憶を語り合ったりする。ばけものなってから、呼吸するのが楽になった。朝までにはそれぞれの森や沼に帰ってゆく。
(2022.10.31)


その人とは図書館で会った。というか、名前も職業も知らないし喋ったこともなかったんだが。いつも小難しそうな本を読んでいた。「亡くなった祖父が貴方にと」渡された段ボール箱には貴重書が詰まっていた。生憎僕の専門外だったが、本を無下にできない人間ということは、見抜かれたようだ。
(2022.10.30)


地球行きの切符を買った。もちろん使うことはないだろう。額縁に入れて壁に飾ろう。死ぬときは墓に入れてもらおう。いや、孫にあげようか? 何にせよ、地球行きの切符はもう二度と買うことはできない。もう永遠に売られない。人類発祥の地、遠い地球は、じき太陽に呑まれて消滅するのだから。
(2022.10.30)


「叔父さん、東京で名探偵してたって本当? もうしないの?」「こんな田舎で事件なんて起きないさ」「起きたらする?」「お前わざと事件を起こすなよ?」翌週、俺は嫌々探偵業を復活させる羽目になった。可愛い姪を、こんなタイミングで本当に起きてしまった殺人事件の容疑から晴らすために。
(2022.10.29)


エスキモーに冷蔵庫を売る話があるが、最近はロボットに冷蔵庫がよく売れる。大型が人気だ。もちろん食品を冷蔵するためでも、凍らせないためでもない。生身の人間をパートナーや主人にしていたロボットが、亡くなった彼らを腐らせないためである。そして会いたいときにすぐ会えるように。
(2022.10.28)


体の一部から始まり、どんどん全身がモンスターに変わる奇病が流行り始めた。モンスター化が進む者ばかりが増え、まだ発病していない人々はシェルターにこもった。そして気づいた。モンスター化の始まりが体とは限らない。シェルターにいるのは皆、心から始まった者たちだったのである。
(2022.10.26)


ドラゴンが百年ぶりに巣に帰るとそこは人間の町になっていた。燃やしてやろうかと思ったが、人々が歓迎の宴など始めたので気を変えた。酒は旨く踊りや歌は楽しかった。時が過ぎまた百年ぶりに帰ってみると、町は廃墟になっていた。戦争があったか。ドラゴンはひとり記憶の中の歌をうたった。
(2022.10.23)


今朝の占いでは恋愛運が最高だった。といっても別に好きな人もいないし。というか人を好きになったこともないし。いらねえな恋愛運。そう思いながらの出勤途中、遠くで空から奇妙な物体が降りてくるのを見た。アダムスキー型。ありえねえ、面白すぎるだろ。ヒールを鳴らして私は駆け出した。
(2022.10.21)


この町では魔法使いはみなピエロと見まごうような奇抜な衣裳を着ている。極彩色の水玉とか、ウサギの着ぐるみとか、金色に塗った肌とか。子供の頃は死んでもそんな格好するものかと思っていたが、いざ魔法使いになると重要さがわかった。衣裳さえ脱げば普通の人間にたやすく変身できるのだ。
(2022.10.21)


うちの一族の長女は代々、神の嫁になる。といっても蔵に花嫁衣裳で一晩籠るだけだ。「昔、神に嫁いだ娘がいてね、その血筋に彼女が再び生まれるのを待っているそうな」蔵の闇の中で、一瞬、美しい存在を見た。彼は私を一瞥して消えた。(……違う)あまりに哀しそうで、私も泣きたくなった。
(2022.10.19)


「魔法なんて非科学的なものは信じませんよ」プンプン怒りながらロボット執事が言う。「貴方はロボットだものねえ」老婦人が微笑む。「でもあなたがそうして怒ったりするようになったのは、やっぱりお隣の魔法使いに魔法をかけられてからよ」「友達になっただけです」「友達になる魔法をね」
(2022.10.18)


気がつくと脳だけになっていた。水槽の中でたゆたっている。静かで、水は清潔で、薄暗くて、心が安らいだ。自分が飼われていることに気づいた。青々とした水草の間から美しいエンゼルフィッシュがあらわれて、その鼻先で優しくつついてきた。挨拶のように。こんにちは。こんにちは。
(2022.10.17)



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