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数次相続が発生し各相続毎に共同相続の登記申請がされている場合における遺産分割協議後の登記申請について

※こういう手続きができるようになったらいいなという試論です。あしからず。

(問)数次相続が発生し各相続毎に共同相続の登記申請がされている場合における、遺産分割後の登記申請について

〔ケース〕詳細は別図の通り。被相続人某死亡後、相続人Bが死亡し、その相続人B1が死亡した場合で、相続人の一人からの申請により、各相続毎に保存行為で共同相続登記がされている。その後、A、B2、Xの3名が遺産の対象物件を共有取得する旨の遺産分割協議が成立した。

想定登記事項証明書

〔疑問の起点〕これまで、共同相続登記後に遺産分割協議が調った場合には、共同相続人間で「年月日遺産分割」を原因とする持分全部移転登記(共同申請)を申請することで、実際の権利状態を公示することになっていました。

(問合)相続により数人のために既に共同相続の登記がなされている物件につき遺産分割協議書による所有権移転登記の申請は、不動産登記法第26条〔筆者注:旧法・共同申請〕によるべきか、同法第27条〔筆者注:旧法・単独申請〕によるべきか至急御指示を請う。
(回答)本月3日附で問合せのあった件については、不動産登記法第26条によるのを相当とする。

昭和28年8月10日付民事甲第1392号民事局長電報回答

質疑応答 〇3618
調停による遺産分割登記の登記原因について
問 共同相続登記後、遺産分割の調停が成立した場合の所有権移転登記の原因は、左記2説のうちいずれが正当でしようか。
 なお、登録税は登録税法第2條第1項第2号又は第5号のいずれによるべきでしようか。
    記
一、年月日調停
二、年月日遺産分割
(山口Y)

答 前段「年月日(調停成立の日)遺産分割」
と記載するのが相当であると考えます。
 後段 登録税法第2條第1項第5号により徴収すべきものと考えます。

『登記研究』第171号66頁

質疑応答 ○6921
遺産分割を原因とする所有権移転登記の申請について
〔要旨〕甲所有の不動産について、法定相続人(A・B・C)による共同相続登記を経由した後、相続人中の一部の者(A)を単独所有者とする旨の遺産分割協議が成立し、他の相続人(B・C)の持分を遺産分割を原因としてAに移転する場合には、Aを登記権利者、B及びCを登記義務者として、一件の申請書で申請するのが相当である。

 甲所有の不動産について相続人全員(A・B・C)による共同相続登記を経由した後、Aを単独取得者とする旨の遺産分割協議が成立したため、「年月日遺産分割」を登記原因として(B・C)の持分をAに移転登記しようとする場合、B及びCの持分移転登記は各々別件として随時登記申請することができると考えますが、いかがでしょうか。
(愛知 狭間生)

 一件で申請するのが相当と考えます。

『登記研究』第481号133頁

 しかし、令和5年の改正不登法施行後においては、共同相続登記後の遺産分割による登記については、持分全部移転登記ではなく、更正登記(単独申請)によることができるようにこれまでの運用が改定される見込みです改定されました
 直感的には、遺産分割協議の成立によりその取得が遡及しますから、以前より体感としてわかりやすい運用ではあるなと思っています(相続放棄の場合は更正で足りますが、上記例のように共同相続登記後に遺産分割協議が成立した場合は、持分全部移転によるのがこれまでの運用でした)。
 しかしながら、今般の新規運用のもとでは、従前の取扱とも異なってきますので、標記のケースについては、現在の登記名義人らによる遺産分割協議を経由して、便宜、以下の順序により、更正登記(単独申請)による手続きをすることができるようになるのではと考えています。

〔意見〕数次に渡る共同相続登記が経由されていた場合であっても、現に有効な登記名義があるときには、一次相続から順に登記名義を取得する現在の登記名義人から更正登記(単独申請)を経由することで、実体に合致した権利関係の公示をすることができる。

〔理由〕遺産分割未了の間においては、共同相続の登記が経由されたとしても、未分割の当初被相続人の相続分が承継され相続分があることを公示するに留まり、本来的には共同相続の登記名義人間で遺産分割の協議が可能です(類例下記のとおり)。

(照会) 被相続人甲が死亡(昭和25年3月1日死亡)し、その直系卑属も直系尊属もないため、甲の配偶者乙が甲の兄弟丙、丁、戊とともに相続をした不動産について、相続登記未了のうちに乙が死亡(昭和27年5月3日死亡)し、乙に直系卑属も直系尊属もないため、乙の兄弟A、Bがその権利を相続した。
 いま右A、Bが前記、丙、丁、戊とともに丙を右不動産の単独取得者とする遺産分割の協議をし、その協議書を添付して丙より右不動産の相続登記の申請があつたが、これを受理してさしつかえないでしようか。民法第907条に規定する共同相続人とは、同順位の相続人のみを指称するものと解され、従つて本間のように二つの相続の相続人間においては遺産分割の協議が許されないものと考えられ、いささか疑義がありますのでお伺いいたします。
 なお、右受理してさしつかえないとすれば、丙の相続登記の原因及び日付は「昭和25年3月1日相続したるに因る」の振合いでさしつかえないでしようか何分の御指示をお願いいたします。
(回答) 本月6日附登第756号で問合せのあつた標記の件については、甲の死亡により開始した相続によりその配偶者乙が取得した相続人としての権利義務は、乙の死亡により開始した相続によりその兄弟A・Bにおいて承継したものと解すべきであるから、所間の遺産分割の協議は有効であり、その登記は、受理してさしつかえないものを考える。なお、相続登記の原因及び日附は、貴見のとおりでさしつかえない(昭和27年7月30日民事甲第1135号本官回答参照)。

昭和29年5月22日付民事甲第1037号民事局長回答

 従前の通達の射程範囲は明確ではありませんが、運用の改定により従来の持分全部移転に代わって、更正登記が許されるとするならば、上記の理由から、再転相続をかさねていたとしても、まず現在の相続人らの協議によって更正登記を否定する理由はありません。(不勉強かもしれませんが、そもそも、再転相続を重ね直接の親族関係の無い相続人から相続人へ、遺産分割による持分移転登記をすることは、物権変動履歴の公示という観点から妥当なのでしょうか【後記通達:昭和36年3月23日民事甲第691号民事局長回答】)

 ついては、この場合、具体的な方法として、現に有効な登記名義が存するときは、登記原因の時系列に沿って遺産分割を原因とする更正登記を経由して、以下の順序に申請をすることで、現実の権利関係を公示することが可能と考えます。

◎申請の流れ
1)1番所有権更正(A〜E→AB)
2)2番所有権更正(B1〜B3→B1、B2)
3)3番所有権更正(XY→X)

 これは遺産分割により、遡及して第1相続ではAとBが相続し、第2相続においてB1とB2が相続し、第3相続でXが相続したという遺産分割協議が成立したとみなせるからです。

(照会)被相続人甲が死亡(昭和25年)し、その直系卑属乙、丙が相続した不動産につき、相続登記未了のうちに乙が死亡(昭和27年)し、その直系卑属A、Bが相続した。
右事案において、A、Bが前記丙と共に丙、Aを相続人とする遺産分割協議書を添付して相続登記申請があった場合、これを受理して差し支えないものと考えますが疑義もありますので御伺い致します。
 なお、出来るとすれば一件の申請で差し支えないか、併せて御指示をお願いします。
(回答)昭和35年11月24日付総発第1977号をもつて問合せのあつた標記の件については、遺産分割の協議でAを丙と同順位の相続人とすることはできないから、所問の協議は、Aは、乙が相続により取得した持分を相続することとしたものと解すべきである。従つて、所問の場合には、まず、乙、丙の名義に相続による所有権移転の登記を申請し、次いで、Aの名義に相続による乙の持分の移転の登記を申請すべきものと考える(昭和29年5月22日付民事甲第1037号及び昭和30年12月16日付民事甲第2670号本職通達参照)。

昭和36年3月23日民事甲第691号民事局長回答

 また、各更正登記間においても、1番では相続人5名からAとBの相続、2番では相続人3名からB1とB2、3番では相続人2名からXの相続と、同一性が認められることから、更正登記の要件を満たします。通常、こういった際には、巻き戻し抹消か巻き戻し更正をすることになりますが、一部実体に合致する以上、これを抹消することは適しませんし、最終的な持分取得の結果、原理的にも巻き戻し更正はできません。また、再度持分移転等を経由することは、別の持分移転があったような登記記録を作出するものであり、これは権利承継の正確な経緯を公示しているとは言い難く、上から繰り下げて更正をする他ないのではと考えます。

 実際の登記申請については、遺産分割による更正登記は、単独申請によるものとなったため、同様に1)〜3)の登記申請については、登記原因証明情報兼承諾証明情報として、遺産分割協議書と印鑑証明書を添付して、受益相続人らの単独申請によるものになると考えます。 また、登記申請の真正さは承諾証明情報により担保されるため、保存行為による共有者1名の申請も可能であると考えられます。

(上記までは、可能な手続きと考えますが、下記は要検討かなと考えています)

 ●異なる条件(1)・別の相続人に相続が発生し、共同相続の登記が経由されている場合

 例えばB持分全部移転の後に、相続を原因とする持分C持分全部移転の登記が経由され、かつ、Cの相続人らが相続せず、A、B2、Xが共有取得する旨の協議が同様に成立した場合は、下記のどちらかの方法で登記が可能と考えます。

➀−➀抹消登記申請
 前述の流れで遺産分割を原因とする更正登記を申請しますが、2番所有権更正の登記申請と抵触するため、当該申請の前に所有権抹消(C持分全部移転)の登記を申請します。また、この際の登記原因は、錯誤ではなく、更正登記が公示の観点から遺産分割を原因として表示するべきこと検討されていることと平仄を合わせるため、同様に遺産分割を原因とするべきと考えます。

➀−➁巻き戻し更正登記申請
 なお、そうはいっても、Cの相続人が法定相続分以下の相続をする可能性もあります。この際は、同様に遺産分割を登記原因として、所有権更正(C持分全部移転について)を申請して、次に、2番所有権更正をするという巻き戻し更正の方法によることになるでしょう。


②職権抹消(難しそう?)
 前述の流れで遺産分割を原因とする更正登記を申請することにより、抵触するC持分全部移転は職権抹消され、また、提供する遺産分割協議書等が、登記原因証明情報兼承諾証明情報となります。(相続登記義務化との兼ね合い[義務化により安易な義務履行として保存行為による共同相続登記の増加]や今回更正登記が認められた趣旨を考えれば、認められてほしいと考えます)
※更正登記には一部抹消の性質があり、抵触する登記については利害関係人の承諾があったことを証する情報を要する場合があります。このことに鑑みれば、職権抹消の規定を類推適用する余地もあると考えます。

●異なる条件(2)・別の相続人に相続が発生したが、共同相続の登記を経由していない

 例えば、Cが死亡し、相続登記が未了のケースです。 この場合は、更正登記が単独申請申請であり、戸籍謄本等と遺産分割協議書等の添付により、Cの相続人ら承諾をしていることは明らかになりますので、前述の流れで、3件の登記を申請することで、登記が可能と考えます。 
(いわば、これまでの相続人が義務者となっていた場合と同義です)

まとめ

 再度、言い訳で、不勉強だとは思うのですが、別順位の相続人から、別順位の相続人への遺産分割による持分全部移転の登記は許されるのでしょうか? 私は、前述の昭和36年通達(数次相続発生時の遺産分割)から、相続人らで異順位の相続人らの数名が相続する旨の遺産分割協議が成立したときは、中間相続人が一旦相続したものとみなされ、数件に分けて申請せねばならない以上、できないと考えているのですが……。
 これが一転して、一括して相続しない相続人から相続する相続人へ全部移転登記を申請することが可能なら、それもそれで手法として成立しますが、前記私の見解だと、更正又は抹消を経由して、数度の移転登記を経由するということになり迂遠です。ついては、運用の改定にあたって、本記事の手法が可能でないかと思い至った次第です。
(なお、想定する件の場合は、「保存行為により」共同相続登記を経由していますので、持分全部移転の場合は本人確認情報を提供せねばならず、単独申請たる更正登記にて登録免許税と本人確認情報費用を抑えたいという視点もあります)

遺産分割登記後イメージ

以上


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