図書館での出合い。山崎ナオコーラさんの「かわいい夫」を読んで。
なんとなくチグハグ感のある題名に惹かれて手に取ったのは、山崎ナオコーラさんのエッセイ集「かわいい夫」。
ナオコーラさんの存在は知っていた。
新聞の書評や本の紹介コーナーに時々出てくる作家さんで、読みたいなと思っていた本や、読んでみたいなと思わせる本を紹介してくれる。なぜだか惹かれる作家さんだった。
このタイミングでこの本を手に取ったのは、絶賛、私がパートナーシップについて考えている時期だからだと思う。
ナオコーラさんの夫に対するスタンスや想い、行動に、特別多くの共通点があったわけではない。それでも、なるほど…と感じさせるエピソードや、取り入れたい考え方があった。
今日はそれを紹介したいと思う。
仕事観
私の家庭での経済的なポジションは、大黒柱ではない。夫がそのほとんどを担っている。それでも今自分がやっている仕事に、誇りを持っている。それは社会につながっている、誰かの役に立っている感覚が確かにあるからだ。そしてそのつながりは、大袈裟に言えば、自分が生きていく理由にもなっている気がする。
というのも、以前は子どもに「○○なお母さん像を見せたい」という想いが強かった。例えば、「上の息子が中学生になるまでに、『お母さんは書く仕事をしている』って言えるように頑張ろう!」みたいな想い。それは別に悪いことではないのだけれど、書く仕事をしたいのは私であって、それを見てどう思うかは息子次第。だから他人の想いにモチベーションを持つのは良くないなと思ったのだった。
その答えを端的に表してくれたこの文章に出合って、ああ、そうだよねと、さらにしっくりきている。
穴は埋めなくていい
家族が減るのは悲しい。家族が増えるのは嬉しい。でも減った後に増えたからといって、その穴を埋めることはできないって、確かにそう思う。
義理の祖母が亡くなった3ヶ月ほど前に、上の子の妊娠がわかった10年前。そのとき義母は「おばあちゃんが来てくれたのかもね」と夫に言ったところ、夫は「そういう考えは好きじゃない」と答えていた。私は何も言えなかったのだけど、そういう風に考えている夫を内心、好ましく思った。おばあちゃんとお腹の中の子は別々だよねって、私も思っていたから。
穴はふさがらない。だから大人になるにつれて、私たちは穴だらけになる。でもその分、新しいコブみたいなものができる。凹凸な自分を私も大事にしたいなって思う。
本屋と結婚
「結婚」って、改めて考えてみるとすごい制度だよなって思う。だって、赤の他人と「(その時点では)一生涯を共にします」と宣言するのだから。
できれば自分にぴったりの人をパートナーに選びたいと思うけれど、人は変わっていくものだから、例えその時点でぴったりだったとしても、途中で「あれ?」ってズレてくることはある。もちろんその逆も然り。
私は自分の夫のことが大好きだし、今もその「好き」の総量は変わっていないけど、「好き」の表現の仕方は、年齢を重ね、家族が増えていくに従って変化しつつある。環境の変化に気持ちが追いついていなくて、寂しい感情があるからこそ、これからどうするのがお互いにとって心地よいのか考える時期にきている。
図書館に行って、たまたまナオコーラさんの著書を手にして、この文章が印象に残って、こうして感想を書いているのは、うまく言えないけれど、自分の側に居てくれる人を愛する行為と地続きになっている気がして、ひとりニヤリとしてしまう。
観察と責任
こんな風に自分の現状を素直に描ける人っているのだろうか。自分の仕事がうまくいっていないと人に伝えるのは、勇気がいる。作家さんであっても、違う職業であってもだ。本を読み進めながら、なんて嘘がない人なんだろうと思った。
私は「作家さん=本を出す人」という乏しいイメージしか持ち合わせていないので、作家という職業の人たちがどんな風に暮らしているのか想像ができない。だけど本を出せる力量を持っている時点で、無条件で憧れてしまう存在だし、自分の脳内で考えていることや感じていることをこちら側にも同じように見せてくれる人たちに、心から尊敬の念を抱いてしまう。
このエッセイ本が出版されたのは2015年なので、今から8年前。ナオコーラさんの本、売れたらいいなぁと思っていたら、2023年9月23日の北陸中日新聞の書評の欄に評者としてナオコーラさんが載っており、「作家。『ミライの源氏物語』がBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞しました」と紹介されていた。
それを見て「あぁ、よかったぁ」と勝手に嬉しくなってしまった。
きっと、その時、その時点での自分の状況・状態を観察し、覚悟と責任を持って進まれてきたんだろうなって思う。覚悟も責任も自分で持つしかないから、本当にすごいことだと思う。
その書評欄で紹介していた「異世界のうっとり感を味わえる」3冊のうちの1つ、江國香織さんの「シェニール織とか黄肉のメロンとか」が気になったので、これもまた読んでみようと思っている。
ナオコーラさんと出身地が同じで、母親の出身地も同じなので、勝手に親近感を覚えている作家さん。いつか会えたら嬉しい。
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