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【読書日記】侍女の物語 / マーガレット・アトウッド

2023年1月14日読了

2023年が始まって最初に読んだ小説。ディストピア小説として有名な作品で、1985年発表だが2017年にHuluでドラマ化されていたことを後から知った。Twitterでディストピア小説のおすすめ!というツイートを見かけてこの作品を知り、前から気になっていたが、想像以上に凄い内容で、新年一発目から大当たりだった。

放射能汚染などによる問題で女性の不妊率や奇形児の誕生率が上昇した世界で、妊娠可能な健康的な女性は支配階級の子供を産むための道具「侍女」として強制的に連行され管理されている社会。
妊娠できず権力のない女性は汚染環境下で労働させられ、男性も禁欲を強いられ、罪人は即処刑されて見せしめにしばらく吊るされるといった歪んだ政治体制が、侍女である主人公視点で語られる。

しかしこの小説の一番すごいところはディストピア設定の描写ではないように思う。むしろディストピア設定については、その社会に至った経緯などにリアリティがなく(意図して詳細に描いていない印象もあり)、あくまで舞台装置として描かれていると感じた。

この小説のすごいところはその歪んだ社会の中で描かれる主人公の心情描写だと思う。とにかく文章が凄まじい。少し冗長に感じる部分もあったが、一つ一つの比喩表現をとってもいちいち凄い。人の心の動き、感じたこと、見えたもの、それらをここまで鋭く文章にできるのかと驚かされるほどで、久しぶりに「気に入った文章をメモする」という行為をした。なんならページ単位で写真に収めたほどだ。文章によって息を呑まされる体験、これがあるから小説読むのはやめられない……。

ディストピア設定も「こういう世界設定ですよ」という説明を最初にするのではなく、主人公の視点による心情をメインに描く中で少しずつ設定が暴かれていく。
凝った世界設定をあえてただの舞台装置としながら、鋭い文章力による心情描写を主軸に設定を少しずつ明かしていくこの構成はカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を思い出す。

また、この小説は時系列が頻繁に行ったり来たりする構成で、現在進行の話から何の前触れもなく回想になったり、夢や妄想の話になったりするが(この作品が読みづらいと言われている原因かと思う。比喩表現も冗長だし)、読み進めていくとしっかり回想や夢の話が繋がっていき「あのときの話はここから繋がるのか…」とさせられる部分も多く、そういった立体的な構成もとても面白かった。現在の時系列だけとっても、複数の問題が同時進行する奥行きがあり、そこに様々な回想が絡み合う構成力にもいちいち感心した。

ただとても残念なのは終わり方だった。最後の最後に、主人公の語りはすべてカセットテープに収められた記録として、後世で歴史学者がこの物語を考察し発表する、というエピローグで幕を閉じるが、これはかなり微妙な終わり方に感じた。ディストピアものとしてリアルさはあるかもしれないが、この小説で読みたかったのはリアリティのあるディストピア設定ではなく、あくまで主人公の心情の動きだったからだ。ここだけは明確にがっかりしたポイントで、最後まで凄まじい心情描写で突っ切っていたら個人的には『わたしを離さないで』と並ぶほどの傑作だったかも……とすら思った。

Huluのドラマは映像美も相まってかなり評価が高いらしく、こちらも気になった。

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